つれない男女のウラの顔



「今週もお疲れ様!ってことで、かんぱーい」
「乾杯」


マイコの合図と共に、持っていたグラスをマイコのグラスにカツンとぶつける。キンキンに冷えた生ビールを喉に流し込むと、思わず「あーうまっ」とオッサンみたいな声が漏れた。


「週末のビールってなんでこんなに美味しいの」

京香(きょうか)ちゃん、美味しいのはビールだけじゃないのよ。こないだオタク仲間とこの店に来たんだけどね、ここの料理まじで全部美味しいから」


ドヤ顔を向けてきたマイコとやって来たのは、半年前にオープンしたばかりの、会社から一駅離れた肉バル。どの料理もお酒にあって美味しいと、巷では噂になっているらしい。


「どうしても京香をここに連れて来たかったの。私が誘わなきゃ、京香はすぐに引きこもっちゃうから」

「ありがとうマイコ。あなたの仰る通り、毎日寄り道もせず自宅に帰ってるよ。マイコのお陰で社会勉強が出来てます」

「ほんとコミュ障にもほどがあるよねー。私には全然理解出来ないわ」


それもそうだろう。マイコはとにかくコミュ力が高い。重度のオタクだし、少し変わったところもあるけれど、誰とでも友達になれちゃう気さく過ぎる女。

入社式で初めて会った時、あまりにも躊躇なく話しかけてくるから、その勢いが最初はちょっと怖かった。

だけど本当に面倒見がよくて、明るくて、誰に対しても優しくて包容力があって…だから研修中も、周りの輪から外れている私をよく気遣ってくれた。そんな彼女の人柄に惹かれ、尊敬するようになった。

会社でも安定に一匹狼の私だけど、彼女にだけは心を許せる。マイコは経理部だから会社ではあまり会えないけど、私の唯一の友人だ。

< 8 / 314 >

この作品をシェア

pagetop