つれない男女のウラの顔
「会社で京香のことを見かける度に思うんだけど、いい加減マスクは暑くない?冬ならまだしも、夏は苦しいでしょ」
「めちゃくちゃ暑い。そのせいで顔が赤くなる時もある」
「それじゃ全然意味ないじゃん。もう外してしまえばいいのに」
「無理だよ。私にとってマスクは精神安定剤なの」
「ふうん。でもさ、そもそもそんなに気にすることじゃなくない?むしろ可愛いと思うよ。クールに見えてすぐ顔が赤くなるって、ギャップ萌えじゃん」
「そんないいものじゃないよ」
確かに、大人になった今なら昔ほどいじられることはないと思う。だけど私の中の嫌な思い出は、そう簡単には消えてくれない。他人には理解しづらいかもしれないけれど、トラウマを克服するのはなかなか難しい。
それにもしこの体質が周りに受け入れられたとしても、このコミュ障が今更治るとも思えない。長年に渡り人を避け続けてきたから、接し方がよく分からないのだ。
「まあでも、その辛さとかは本人にしか分からないもんね。私の妹も同じ悩みを持ってるけど、未だに悩んでるよ」
「そういえば妹さんもすぐに赤面するんだっけ?一度会ってみたいな。絶対に話が合うと思うんだよね」
私の悩みをマイコに打ち明けたのは、新人研修の最終日。その時、マイコの2つ歳が離れている妹さんも同じ体質で悩んでいるということを教えてもらった。
コミュ障な私だけど、同じ悩みをもつ妹さんとは一度話をしてみたい。このストレスを共有できたら、また違う世界を知ることが出来る気がするから。
「結婚して離れて暮らしてるから、私もなかなか会えないんだよ。でももし京香と妹が会ったら…私を差し置いてふたりがめちゃくちゃ仲良しになりそうでさみしいな。想像しただけでも妬いちゃうわ。それこそ引きこもってオタクを極めてしまいそう」
「何言ってんの。今の私にはマイコしかいないよ。マイコには本当に救われてるの。離れたいって言われても離してあげないから」
「もー京香可愛い!皆こんな可愛い京香を知らないなんて勿体ない!でも独り占めしておきたい気持ちもある!とりあえず気分がいいから飲みましょ!」