65リットルよりも、笑って。




「……恵(めぐみ)さん。どうぞ」



ここで忘れたふりをしたら、どうなるだろう。

覚えていないふりをしたほうが私の悲惨さを全面的に伝えることができるのかもしれない。


でも、無理だった。


どのくらいぶりに聞いたかなって名前と、現れた確かな女性を前にしたら。

そんな仕返しなんかできそうになかった。


────片時も忘れたことなんか、なかったよ。



「……なゆ…?」



歳をとった。
ずいぶんと、歳をとった。

最初に思った気持ちはこんなもの。


約10年も経っていれば誰だって歳をとる。


私だって身長が伸びたんだから、あなたはもう私のことをおんぶなんか絶対できっこない。



「っ!なゆちゃん…!」



遺伝子レベルでそーいうのって、あるのかな。

母親を前にすると子供は自分の足で向かいたくなる、とか。


ついリハビリ途中だった松葉杖を使うことを忘れてしまい、その場に転けそうになったところをタイミングよく支えられる。



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