65リットルよりも、笑って。
泰斗side




もっと暴れてくれてよかった。
もっと責めて、攻撃して、恨んで叫んで。

俺たち医者は彼女にそうして欲しかったし、そうさせてやることが目的でもあった。


ところがスペシャルなゆすら降臨せず、他人である俺が我慢ならずなゆの母親を責め、本人といえば今は泣き疲れて409号室のベッドで静かに寝息を立てている。


ベッド脇に置いてある、電動式の車椅子。

肘置きにキーホルダーがぶら下がっていて、それはいつかに売店で買った飲み物に付いてきたという。



『たいとくん。わたし………しあわせ』



睡魔と戦いながらも、なゆはそう言ってついさっきまで笑っていた。


自分を捨てたような母親と再会し、あそこまでの涙を流し、「幸せ」だなんて。


そんなはずないだろと、また俺が怒りたくもなった。

けれど本当に少女は幸せそうに笑っていたのだ。



「先ほどは取り乱してしまってすみません。医者として…俺は間違っていました」


「…けれど、人としては正しかったと僕は思う。どちらを選ぶべきだったかなんて、医者の前に人である僕たちには難しい判断だよ」



病室にいたのは俺だけではない。

なゆを見守りながらも窓の空を見つめていた主治医でもある渡会先生は、俺の行動を叱りはしなかった。



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