65リットルよりも、笑って。
「おれ、は……、俺は、なにもできなかったんだ…、医者のくせに、おまえの病気を治してやることすら…っ、それすら、それすらできなかった……っ」
「……しあ…わせ、」
だって先生がいるから。
私のそばには泰斗くんがずっと居てくれたから───、
都合のいい解釈が許されるなら、俺にはそう聞こえた。
「っ、…っ…、おれも…っ、俺もっ、しあわせだよ……っ」
なゆ、なゆ。
何度も何度も名前を呼んで、ぎゅうっと手を握るだけじゃ足りないから抱きしめる。
ふわっと微笑んだ彼女はとてもきれいで、涙で滲んでしまったことだけが心残りだった。
「…しあ、わせ……よ」
「っ…、ああ、…幸せだな」
きれいすぎて優しすぎる涙が、なゆの柔らかな瞳から一筋流れた。
通りすぎる人間の視線など、足音など、今の俺には見えなければ聞こえもしない。
そんなものどうだっていい。
俺の目の前には、なゆがいる。
なゆの笑顔だけが見えて、なゆの声だけが聞こえてくる。