【シナリオ版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

第十一話



○回想・大きな桜の木
 木の上に登っている美桜とそれを見上げている和仁。

和仁「……」
美桜「あのさ、お願いがあるんだけど」

 木の上でガクガク震えている美桜のディフォルメ。

美桜「降りるの、手伝ってくれないかな…?」
和仁「は?」
美桜「いやあの、この子助けるために登ってみたけど、意外と高くて…」
和仁「…アホなのか?」
美桜「お願い!助けてください!!こんな時にスマホもなくてぇ!!」
和仁「はぁーー…」

 和仁、降りれなくなった美桜に手を貸す。猫と一緒に何とか降りられた美桜。
 猫を抱っこしたまま、地面に着地した美桜。制服には葉っぱが付いている。

美桜「助けてくれてありがとう!私、美桜。あなたは?」
和仁「は?」
美桜「名前だよ」
和仁「名乗ってどうする」
美桜「もしかして名無しさん?名前付けてあげようか?」
和仁「そんなわけあるか!」
美桜「あはは、冗談だよ。ちなみにこの子はまだ名無しなんだ」

 美桜が抱っこしている猫のアップ。まるまるした三毛猫。

和仁「あんたの猫じゃないのか?」
美桜「違うよ。うちの近くをナワバリにしてるだけ」

 美桜が猫を下ろすと、のしのしと歩いて行ってしまった。
 猫に向かって美桜は手を振る。

美桜「じゃあね〜ワガハイ」
和仁「ワガハイ?」
美桜「あの子の名前」
和仁「なんだそれ」
美桜「ワガハイは猫である〜ってね」

 ペロと舌を出し、おどけた笑顔を浮かべる美桜のアップ。

美桜「で、あなたの名前は?」
和仁「(…しつこいな)」
美桜「教えてくれないなら勝手に呼ぶけど」
和仁「……と」※小声
美桜「ん?」
和仁「吉野和仁」
美桜「和くんかぁ!よろしくね!」

和仁モノローグ「これが美桜との出会いだった。
はっきり言って第一印象は、“なんだこの女”だった」


○回想・染井との抗争(夜)
和仁モノローグ「その当時、桜花組の傘下と染井一家の傘下が小競り合いを起こしたことから、染井一家との抗争が勃発していた。
俺はその抗争の中で、ある男と対峙した」

 和仁と対峙する一重の男。
 現染井一家の若頭・染井義徳の若い頃の姿「(鬼頭は旧姓)」。

和仁モノローグ「奴の名は鬼頭義徳。
若いが頭がキレて実力も相当。俺は奴とやり合い、初めて気絶させられそうになった。顔に傷を付けられたのも鬼頭が初めてだった」

 お互いボコボコに殴り合うシーン。
 和仁と義徳の周りには何人も倒れているが、二人だけがふらつきながらも立っている。二人とも血だらけ。
 肩で息をしながら、お互いに拳を突きつけようとするシーン。

和仁モノローグ「結局決着は着かず、両者引き分けとなった。これ以上抗争が長引くことを懸念した互いの組長が話し合い、和解という形を取った。
まあ表向きだけの話だが」

 桜花組の組長(和仁の父)と染井一家の組長が握手を交わすシーン。
 表向きの和解だけだという歪さがわかる演出。


○数日後・桜の木の下(昼)
美桜「ええっ!?どうしたの、和くん。その顔…!」

 驚く美桜のアップ。
 顔も腕も傷だらけの和仁。

和仁「…転んだ」
美桜「転んでそんなになるわけないじゃん!座って!」

 ここに座って!と地面を叩く美桜。

美桜「ほら早く!」

 渋る和仁の腕を引っ張って無理矢理座らせる。
 スクールバッグの中に入っていた救急セットから絆創膏を取り出し、和仁の頬に貼る。

和仁「それ、いつも持ち歩いてるのか?」
美桜「え?うん。うちにもよく怪我する人がいるからさ」
和仁「ふうん…」
美桜「てか和くんちゃんと手当した?」
和仁「してない」
美桜「なんでしないの!?もう、ちょっとそこで待ってて!」

 立ち上がってどこかに行ってしまう美桜。
 しばらくして救急箱を抱えて戻ってくる。

美桜「そのままにしてたらダメだよ」

 救急箱から消毒液を取り出し、ガーゼに当ててポンポンする。

和仁「うっ」※傷にしみた
美桜「我慢して。もう少しで終わるから」

 他の患部にも消毒液を当て、包帯を巻いたり絆創膏を貼る。

美桜「はい、終わり!」
和仁「…なんでこんなこと」
美桜「怪我してる人目の前でほっとけないよ」
和仁「…あんた、俺が怖くないのか?」

 きょとんとした後、ニコッと笑う美桜。

美桜「怖いわけないよ」

 美桜の笑顔に驚きと戸惑いを浮かべる和仁。

美桜「怖い顔には慣れてるし」
和仁「え?」
美桜「あ、いや!何でもない!」

和仁モノローグ「カタギなら誰しもが俺を恐れた。俺に近寄ってくる女はいても、極道の息子だと知ると皆離れていった。
それが当たり前だと思っていただけに、美桜の反応は純粋に驚いた」

和仁「(…変な女だな)」

和仁モノローグ「美桜は何となく俺が普通じゃないと気づいていたはずだ。それでも態度を変えず、普通に接してくれた。
それが俺にとっては新鮮だった」


○また別の日・桜の木の下(昼)
 和仁の顔の傷の具合を確認している美桜。和仁の傷はだいぶ引いている。

美桜「傷、だいぶ良くなったね」
和仁「ああ」
美桜「よかった。もうあんまり無理しちゃダメだよ?」
和仁「……」

 二人の視線が絡み合う。

美桜「……あ」

 和仁の顔が美桜に近づく。二人の影が重なり合う。

和仁モノローグ「いつしか俺たちは互いに惹かれるようになっていた」

 互いに顔を見合い、笑っている和仁と美桜。ほのぼのとした雰囲気。

和仁モノローグ「美桜といるのは心地良かった。美桜と一緒にいる時だけは、自分が極道の人間だと忘れられた。
だが――」


○別の日・桜の木の下(夕方)
 バキッ!と和仁を殴り飛ばす義徳。倒れる和仁。義徳の後ろには必死な表情の美桜。

義徳「貴様…、よくも美桜お嬢さんを誑かしやがって」
美桜「義徳くんやめて!!」
和仁「……」
義徳「お嬢さんは下がっていてください」
美桜「お願いだからやめて!!」

 ボロボロと涙をこぼす美桜。
 義徳は和仁を睨み付けている。

義徳「この男は桜花組の若頭なんですよ?」
美桜「わかってる、わかってるけど…っ」
和仁「美桜……」
美桜「っ、黙っててごめんなさい…」

和仁モノローグ「美桜は染井一家組長の娘だった。鬼頭は美桜の世話役だったらしい。
桜花組の若頭と染井一家の娘が恋仲など、あってはならないことだった」

美桜「和くんがカタギじゃないのは何となくわかってた…でも言えなかった。ヤクザの娘と知られたら、嫌われるかもしれないと思って…」
和仁「そんなことで嫌いにならない」
美桜「でも、私が染井一家の娘だと知られたら、一緒にいられなくなると思って…っ」
和仁「美桜…っ」
義徳「汚ねえ手で美桜お嬢さんに触るな」

 和仁に向かって蹴りを入れる義徳。

和仁「ぐっ」
美桜「和くんっ!!」
義徳「帰りますよ」
美桜「いやっ!和くん!!」
和仁「美桜!!」

 号泣する美桜を無理矢理連れて行く義徳。
 引き裂かれる和仁と美桜。


○吉野家(夜)
 和仁を思い切り殴り倒す組長の正仁。

正仁「よりにもよって染井の娘と通じていたとは…お前は桜花組を裏切る気か!?」
和仁「違う!!ただ俺は美桜と…っ」
正仁「黙れ!!お前は桜花組の組長になるのだぞ!!もっと自覚を持たないか!」

 正仁は和仁の首根っこを掴み、拷問部屋に閉じ込める。

正仁「しばらくそこで頭を冷やせ!この恥知らずが!」

 バタン!というドアが閉まる音。


○拷問部屋(深夜)
 顔が腫れたまま項垂れるように座り込む和仁。

和仁「(何なんだよ…結局俺は親の言いなりになって生きるしかないのか?)」

 ブーブーという音。和仁のスマホが鳴る。
 メッセージが1件。

美桜「迷惑をかけてごめんなさい。私たちもう会わない方がいいのかもしれません」

和仁「っ、なんでだよ…っ」

 バン!と壁を殴って八つ当たりする。
 グシャグシャと頭を掻く。

和仁モノローグ「俺は自分の生い立ちを呪った。なんで極道なんかに生まれたのか、なんで美桜と引き裂かれなければならないのか。
俺が桜花組の息子というだけで。
美桜が染井一家の娘だというだけで、なんで……」

 和仁、項垂れたまま電話をかける。

和仁「…美桜か?」
美桜『和くん……』
和仁「頼みがあるんだ」

 顔を上げ、真剣な表情の和仁のアップ。

和仁「俺と一緒に来てくれないか」

和仁モノローグ「俺は美桜と一緒にいることを諦めたくなかった。何もかも捨てても、この恋を貫き通したい。
そんなことを本気で考えるくらい、あの時の俺は青かった。
あんなことが起きるなんて、思いもよらずに――」


< 11 / 15 >

この作品をシェア

pagetop