【シナリオ版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
第十四話
○産婦人科・診察室(昼)
検査後の内診中。エコー写真を見せながら医者が説明している。
医者「五週目に入ったところかな。これが胎嚢です」
ジェシカ「胎嚢…」
医者「赤ちゃんが入っている袋です。来週また来てもらったら心拍が確認できるかな」
ジェシカ「あ、あの、つまり…」
医者「おめでとうございます」※ニッコリ
ジェシカ「…!」
ジェシカ「(妊娠…!お腹の中に私と和仁さんの赤ちゃんが…!)」
○待合室
診察を終えて待合室に戻るジェシカ。待っていた和仁、すぐに立ち上がって駆け寄る。
和仁「どうだった!?」
ジェシカ「妊娠してました」
和仁「本当か!?」
ジェシカ「五週目に入ったところだって」
ガバッとジェシカを抱きしめる和仁。
ジェシカ「!」
和仁「すごい…!すごいな」
ジェシカ「和仁さん」
和仁「ありがとう、ジェシカ」
ジェシカ「(和仁さんも喜んでくれてる…嬉しい。
赤ちゃんができたんだ――)」
峰「…あの、盛り上がってるところ悪いんだけど、ここ病院ですからね?」←運転手としてついてきた
峰の言葉にハッとして離れる二人。
周囲では他の人たちがクスクス笑っている。
和仁「…すまん、つい」
ジェシカ「いえ、私も」
恥ずかしそうに頬を赤らめている二人。
峰「まあとにかく、おめでとうございます!」
ジェシカ「ありがとうございます」
峰「早速みんなに知らせないと。組長にも連絡します」
和仁「あ、いい。組長には俺から言う」
峰「わかった」
和仁「それと、お前に買ってきて欲しいものがあるんだが」
峰「?」
○吉野家・組長の部屋
正仁「何!?子どもができただと!?」
紗代子「まあ!」
パアッと顔を明るくさせる組長夫婦。
その正面に座っている和仁とジェシカ。
ジェシカ「はい、妊娠五週目でした」
正仁「そうかそうか!めでたいな!」
紗代子「おめでとう、二人とも」
ジェシカ「ありがとうございます」
正仁「ついに跡取りが生まれるか!」
和仁「跡取りにするかどうかは…」
正仁「何を言っとる。時期を見てお前に組長の座を譲らんとな」
和仁「……」
ジェシカ「(和仁さん…)」
紗代子「まあまあ、今はジェシカさんの体が大事ですよ。和仁も心配でしょうし、その話は落ち着いてからになさっては?」
正仁「おお、それはそうだな。ジェシカさん、何かあれば遠慮なく言ってくれ」
ジェシカ「はい、ありがとうございます」
○廊下
組長の部屋を出て歩きながら。
和仁「すまない。父が言っていたことは気にしないでくれ。跡取りではなく、俺たちの子を産んで欲しい」
ジェシカ「和仁さん…」
和仁「苦労かけると思うけど、全力で守るから」
ジェシカ「はいっ」
峰「あ、若。言われたもの買ってきたよ」
○居間
ドーン!!と妊娠・出産に関する本が山積みにされたアップ。
本の山に呆気に取られて見つめているジェシカと舎弟たち。
ジェシカ「こ、これは…」
和仁「いいか、お前たち。これを全部しっかりと読め」
千原「えっ!?これ全部っすか!?」
和仁「そうだ」
笹部「兄貴、俺たちが読んでも仕方ないんじゃ…」
和仁「馬鹿が」
ビクッとする舎弟たち。
和仁「妊娠、出産がどういうものかしっかり頭に叩き込んでおけ。ジェシカに何があってもすぐにサポートできる万全の体勢でいろ。
いいか、いついかなる時もジェシカが最優先だ」
舎弟「はいっ」
慌てて本を読み始める舎弟たち。
ジェシカ「和仁さん、まだ安定期にも入ってないのに…」
峰「姐さんのことが心配なのもありますけど、あれで結構浮かれてるんだと思いますよ」※苦笑
和仁「峰!!お前も読め」
峰「はいはい」
和仁たちの様子を微笑ましく見守るジェシカのアップ。
○寝室(夜)
寝支度をしつつ、妊娠の本を読んでいる和仁とジェシカ。
和仁「実家には連絡したのか?」
ジェシカ「はい、父は喜んでくれましたけど、義母はふーんって感じで…」
和仁「娘が妊娠したのにか?」
ジェシカ「義母にとって私はただの不倫相手の娘ですから」
和仁「……」
ぎゅっとジェシカの肩を抱く。
和仁「何故君の周りの人間は君を大事にできないんだろうな?」
ジェシカ「いいんです」
和仁「!」
ジェシカ「今は和仁さんが大事にしてくれてるから…」
和仁、ジェシカを抱き寄せてキスする。
ジェシカ「っ!」
和仁「…我慢したいのに煽るようなこと言わないでくれ」
ジェシカ「煽ってます?」
和仁「(無自覚だからタチが悪いんだよな…)」
○六週目・産婦人科診察室(昼)
エコー検査中。モニターにエコーの様子が映っている。
胎嚢の中にチカチカと点滅するものが見える。
医者「これが赤ちゃんの心臓です。心拍が確認できましたね」
ジェシカ「これが心臓…」
ジェシカ「(私の中で芽吹いた命は、こうして生きようとしているんだ――)」
○待合室
ジェシカ「赤ちゃん、今一生懸命生きてるみたいです」
和仁「そうか、よかった」
ジェシカ「今日母子手帳もらえるんです!楽しみで」
ニコニコしているジェシカを優しそうに見つめる和仁。
○吉野家・玄関
病院から戻ってきた二人に声をかける正仁。
正仁「お帰り。少しいいか、二人とも」
和仁「…はい」
ジェシカ「はい」
ジェシカ「(何かあったのかしら?)」
○組長の部屋
正仁「このタイミングで悪いが、和仁にしばらく九州へ行ってもらいたい」
和仁「九州?」
正仁「向こうで面倒なゴタゴタがあるようでな。九州の傘下から応援要請があった」
和仁「…そんなの俺じゃなくてもいいと思うが?」
正仁「なかなかに厄介そうなんだ。ここでお前が行くことで知らしめたい。次の桜花組を率いる者が誰なのか」
和仁「期間は?」
正仁「二週間だ」
和仁「二週間!?そんなに長く家を空けたらジェシカはどうなるっ」
正仁「舎弟を残していけば良いだろう。母さんもいるしな」
和仁「俺は行かない。ジェシカの傍を離れない」
ジェシカ「和仁さん…」
正仁「ダメだ。お前には桜花組若頭としての立場がある」※厳しい表情
和仁「そんなもの…!」
ジェシカ「あのっ!私大丈夫です!」
和仁「ジェシカ…」
ジェシカ「まだつわりが酷くないですし、大丈夫だと思います」
和仁「でも、」
ジェシカ「心配しないで、和仁さん。行ってきて」※ニコッ
和仁「……、何かあればすぐに連絡してくれ」
ジェシカ「はい」
○九週目・トイレの中
ジェシカモノローグ「だけど、和仁さんが九州に行ってしまった直後から」
ジェシカ「うえっ、ううっ」
便器に向かって吐き出す。
ジェシカモノローグ「つわりがピークに達していた」
ジェシカ「(うう、気持ち悪い…)」
青い顔をしたまま、トイレの中でへたり込む。
ジェシカ「(大丈夫なんて言って送り出したのになぁ…和仁さんがいなくなった途端、こんなに酷くなるなんて…。
赤ちゃんがパパが恋しいって言ってるのかな…)」
フラフラしながらベッドの中に入るジェシカ。
布団に潜ってまるまりながら、ぐすっとべそをかく。
ジェシカ「(ママもパパが恋しいよ…)」
○ジェシカの部屋(夜中)
ガバッと起き上がるジェシカ。枕元に置いてあるスポーツドリンクを飲む。
ジェシカ「!!」
口元を押さえてトイレに駆け込む。
飲んだばかりのスポーツドリンクを吐いてしまう。
ジェシカ「うえっ、……っ」
ジェシカ「(これなら飲めそうと思って買ってきてもらったスポドリでもダメ…水も飲めないし何も食べてないのに吐き気が止まらない…)」
ジェシカ「うう……」
ジェシカモノローグ「千原さんたちが毎日様子を見に来てくれるけど、何も飲み食いできないし気持ち悪いから横になるしかない」
ベッドに戻ってお腹をさすりながら横になる。
ジェシカ「(でも気持ち悪くて眠れない…食べてないから力が入らないし、寒気もする…)」
ジェシカ「(この状態って大丈夫なのかな?病院に行った方がいい?でも…)」
スマホを見ると、時計は深夜一時と表示されている。
メッセージの受信がある。
ジェシカ「(あ、和仁さんからだ…気づいてなかった)」
横になりながらスマホをいじり、和仁からのメッセージを開く。
和仁「大丈夫か?傍にいれなくてすまない」
ジェシカ「〜〜っっ」※じわ、と涙が滲む
泣きながら和仁に電話をかける。
ツー、ツーという音。留守電になってしまう。
ジェシカ「……」
ジェシカ「(この時間は寝てるよね…)」
ボロボロと涙をこぼす。
ジェシカ「うっ、和仁さん…っ」
ジェシカ「(早く帰ってきて――…っ!!)」
○翌朝・ジェシカの部屋
千原がジェシカの部屋のドアを叩く。
千原「姐さん!おはようございます!大丈夫ですか?」
シーンという効果音。
千原「姐さん、開けますよ…?」
遠慮がちにドアを開ける千原。ドアから覗く千原の衝撃を受けた表情。
千原「!! 姐さんっ!?」
ベッドの下で倒れ込んでいる苦しそうなジェシカ。