【シナリオ版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

最終話



○病室(朝)
 目を覚ますジェシカ。白い天井と点滴。

ジェシカ「(ここは……?)」
紗代子「あっジェシカさん!気がついたのね」
ジェシカ「お義母様…」

 ベッドの隣にある椅子に紗代子が座り、心配そうにジェシカを覗き込む。

紗代子「病院で点滴を打ってもらってるところよ」
ジェシカ「あ……」
ジェシカ「(そうだ、起き上がろうとしたけど体に全然力が入らなくて…)」
ジェシカ「ごめんなさい…」
紗代子「謝るのはこっちよ。気づいてあげられなくてごめんなさい。そんなにつわりが酷くなっていたのね」
ジェシカ「和仁さんが行く前までは平気だったんですけど…」
ジェシカ「(あっ!赤ちゃん!)」
ジェシカ「赤ちゃんは無事なんですか!?」

 ガバッと起き上がろうとするジェシカを紗代子が止める。

紗代子「内診はこれからだけど、恐らく大丈夫だろうって」
ジェシカ「そう、ですか…」※じわ、と涙が浮かぶ

 病室の外からドタドタドタという慌ただしい足音。
 ガラ!と勢いよく病室の扉が開く。息を切らして汗をかいている和仁(スーツに血の痕)。

和仁「ジェシカ!!」
ジェシカ「和仁さん…っ」
紗代子「和仁!あなた九州じゃ」
和仁「朝一の飛行機で帰ってきた」※まだ息が乱れてる

 ジェシカの両手を握りしめ、心配そうに見つめる和仁。

和仁「ジェシカ、大丈夫か?」
ジェシカ「……っ」

 ぼろっと涙が溢れるジェシカ。

ジェシカ「和仁さ…っ、あいたかった…っ」
和仁「ジェシカ……」

 ぎゅ…とジェシカを抱きしめる和仁。
 泣いているジェシカを落ち着かせながら、和仁は紗代子の方を見る。

和仁「お袋、ジェシカの容態は?」
紗代子「つわりが酷くて水も飲めてなかったみたいで、点滴打ってもらっていたところよ。ジェシカさんが目を覚まして落ち着いたら内診してもらうことになってるの」
和仁「そうか…」
紗代子「あなたこそ大丈夫なの?血だらけじゃない!」
和仁「これは俺の血じゃない」
ジェシカ「(誰の血なの!?)」
紗代子「…和仁は一度着替えてきなさい。こんな姿を病院の人に見られたらマズイでしょう」
峰「もう遅いと思いますよ、女将さん」

 スーツを持った峰が病室に入ってくる。

峰「飛行機からこのままでしたから…一応替えのスーツは持ってきましたけどね」
和仁「すまん、助かる」
紗代子「相当無茶をしたのね…」

 やれやれというように額に手を当てる紗代子。

ジェシカ「和仁さん…眠くなってきました」
和仁「そうか、ゆっくり休むといい」
ジェシカ「寝てる間も傍にいてくれますか?」
和仁「ああ、ずっといる」

ジェシカモノローグ「和仁さんの言葉に安心して、私は久しぶりに爆睡した」


○病室の外
紗代子「あの二人、すっかり夫婦らしくなっていたのね」
峰「ラブラブですよ。もー見てるこっちが恥ずかしいくらい」
紗代子「まあ、あの和仁が」
峰「実を言うと、古株の幹部や傘下の組長たちの間では良く思ってない者もいるんです。無敵と言われたあの和仁が、一人の女に溺れ切ってるって。実際姐さんは最大の弱点ですからね」
紗代子「そうよね…」
峰「でも俺は姐さんがいて良かったと思ってます。姐さんのおかげで昔の和仁に戻ってきたので」
紗代子「私もそう思うわ。心から大切にしたいと思える人ができて、きっとあの子も強くなったのね」
峰「そうですね。…まあその分俺らは振り回されるんですけどね〜」
紗代子「いつもありがとうね」


○診察室
医者「少しは落ち着いたかな?」
ジェシカ「はい」
医者「じゃあ内診するので旦那さんはご遠慮ください」
和仁「えっ。夫なのにですか!?」※衝撃的な表情
医者「…はい、旦那さんでもです」

「何故だ…」と心底ガッカリした和仁の背中。残念そうに退室する。

ジェシカ「(すごくガッカリしてる…)」※クスッと

内診中。モニターには赤ちゃんのような姿が映っている。

医者「うん、元気に育ってる。赤ちゃんはすくすく育ってますよ」
ジェシカ「よかった…」※ほっとした笑顔


○吉野家
 車で自宅に戻ってきたジェシカたち。
 千原たち舎弟が出迎える。

ジェシカモノローグ「パパが帰って来てくれたからなのか、その日は落ち着いていた」


○ダイニング(昼)
 ジェシカの目の前にレモンを入れた炭酸水を差し出す和仁。

ジェシカ「これは?」
和仁「つわりでも喉を通るものを調べていたら、炭酸水が出てきてな。レモンを入れてみたんだ」
ジェシカ「へぇ…」

 一口飲んでみる。

ジェシカ「あ…飲めます」
和仁「そうか!よかった。微炭酸にして飲みやすくしてみた」
ジェシカ「なんか意外と…冷たくてシュワっとする感じがいけます」
ジェシカ「(先生に水分補給が大事だって言われたし、これなら飲めそうかも!)」
和仁「よかった…ごめんな。やっぱり一人にするんじゃなかった」
ジェシカ「和仁さん…いえ、私も大丈夫だと思ってたのに油断しました」
和仁「いや、君の性格をわかっていたのに離れた俺が間違っていた」
ジェシカ「私の性格?」
和仁「人に頼ったり甘えたりするのが苦手だろう?」
ジェシカ「えっ。……そうかもしれません」
和仁「これからは絶対傍にいる。お産は変わってやれないけど、他のことはなんでもするから」
ジェシカ「…ありがとうございます。今日も帰って来てくれて嬉しかった」
和仁「巻きで仕事を終わらせたからな」
ジェシカ「無茶してないですか?」
和仁「……してない」
ジェシカ「今間がありましたよ?」
和仁「大丈夫だ、心配するようなことは何もないから」

 むう、としながら和仁の手を握りしめる。

ジェシカ「本当に無茶だけはしないでくださいね?」
和仁「わかってる」

 ジェシカを引き寄せて抱きしめる。


ジェシカモノローグ「その後、私はプチトマトなら食べられることがわかった」
ジェシカ「(おいしい!食べられる!)」


ジェシカモノローグ「お義母様がお義父様に掛け合ってくれて、和仁さんは仕事をセーブすることに」
紗代子「大事な時に和仁を遠くに行かせるなんて何を考えてるんですか」
正仁「……」←妻には逆らえない


○病院
 ジェシカの診察に付き添う和仁。内診の様子やエコー写真でダイジェスト風に。


○妊娠六ヶ月目・ダイニング(朝)
ジェシカモノローグ「妊娠六ヶ月目に入り、つわりも落ち着いて何でも美味しく食べられるようになった」

 和仁の作った妊婦に優しい栄養バランスの取れた朝食を食べるジェシカ。ニコニコ笑顔で美味しそうに。

ジェシカ「(ん〜♡美味しすぎる♡私の旦那様天才!)」
和仁「ジェシカ、そろそろ行かないか」
ジェシカ「どこにですか?」
和仁「お母さんに挨拶に」
ジェシカ「あ…」


○ジェシカの母が眠る墓所(昼)
 花束をたむけ、墓前に向かって手を合わせる二人。

和仁「ご挨拶が遅くなってすみません。夫の和仁です……あ。英語の方がよかったかな」
ジェシカ「ふふっ、大丈夫ですよ」
ジェシカ「(でも、そうだな…せっかくだし)」
ジェシカ「マム、私今とっても幸せなの。お腹に赤ちゃんもいるのよ。この子が無事に産まれるように見守っていてね「(英語)」」
和仁「…!」※おおっという顔

 もう一度手を合わせる二人。


○車の中
 運転する和仁と助手席に座るジェシカ。

ジェシカ「ありがとうございました。母も喜んでると思います」
和仁「いや、むしろ遅いくらいだ」
ジェシカ「(でも和仁さんの気持ちが嬉しい)」
ジェシカ「次の健診でいよいよ性別がわかりますね!和仁さんはどっちがいいですか?」
和仁「元気に産まれてくれるならどっちでもいい。性別が決まったら名前も考えないとな」
ジェシカ「あっ!私いいなって思った名前があるんです!」
和仁「ほう?」
ジェシカ「この前、華道の先生の個展に行った時なんですけど」


○回想・生け花の個展
 とある作品に目を奪われるジェシカ。華やかさもありながらどこか儚さも感じる見事な作品。

ジェシカ「わあ!素敵ですね!」

 作品名は「鏡花水月」と書かれている。

ジェシカ「きょうか、すいげつ…?」
先生「鏡花水月とは、鏡に映った花、水に映った月のように手に取ることのできないもののたとえよ。どちらも美しいのにこの手に取ることはできない。
言葉には表現できない、感じ取る美しさと奥ゆかしさみたいなものをテーマにしたの」
ジェシカ「すごく素敵ですね!」


○回想終了・車の中
ジェシカ「人の心の優しさ、美しさを表現してるみたいだなって、すごく素敵だと思ったんです。だから水月(すいげつ)ちゃんはどうかなって!」
和仁「…普通そっちから取るか?」
ジェシカ「あら、だったら鏡花(きょうか)ちゃん?」
和仁「まあ、顔を見てから決めよう」
ジェシカ「そうね!それまでは鏡花水月ちゃんって呼ぼうかしら」
和仁「長いな…」

ジェシカモノローグ「男の子でも女の子でも、あなたに会えるのが今からとても楽しみ。
パパもママも楽しみに待ってるから、元気に産まれてきてね――」


○一年後春・大きな桜の木の下
 桜が満開に咲き誇る。レジャーシートを敷いてお弁当を広げてお花見をしている。
毎年恒例の桜花組全員で行うお花見。

ジェシカ「見て、鏡花(きょうか)ちゃん。桜のお花がとっても綺麗よ」
鏡花「あー」

●吉野鏡花
和仁とジェシカの娘。色白の肌、グレーの瞳、色素薄めの髪色でジェシカによく似ている。

 ジェシカに抱っこされた鏡花は両手を広げ、桜の花に向かってジタバタさせている。

ジェシカモノローグ「私たちの愛娘・鏡花ちゃんは一歳になったばかり」

千原「姐さーんっ!お嬢!お弁当の準備できましたよーっ!」

 ブンブン手を振ってジェシカと鏡花を呼ぶ千原。

ジェシカ「はーい」
鏡花「あー、あー」

 鏡花は和仁に向かって手を伸ばす。

ジェシカ「あら、パパのところに行きたいの?」
鏡花「うー」
和仁「おいで、鏡花」

 和仁は両手を広げ、ジェシカから抱っこのバトンタッチ。 パパに抱っこされて嬉しそうな鏡花。

鏡花「きゃっきゃっ」

 楽しそうに笑う鏡花を優しく見つめる和仁。
 その様子を微笑ましく見つめる舎弟たち。

千原「かわいいっすね〜お嬢」
笹部「ほんとに…」
千原「いや〜お嬢は姐さんに似てよかったっすね〜」
ジェシカ「そう?私は和仁さんに似て欲しかったのだけど」
千原「いや絶対姐さんに似た方がいいっすよ」
笹部「確かに。兄貴は男前だけど目つきが悪い。女の子ではちょっと…」
千原「ね〜。女の子にはちょっとね〜」

和仁のように目つきが悪い鏡花のディフォルメ「(イメージ映像)」。
他の舎弟たちもうんうん、と頷いている。

和仁「…聞こえてるぞ」※ドス黒いオーラ
千原「すいませーん!!」

 慌てた様子で逃げていく舎弟たち。

和仁「ったく、あいつら…」
ジェシカ「ふふっ」
ジェシカ「(でも鏡花ちゃん、お鼻は和仁さん似なのよね♡)」

 ちょん、と鏡花の鼻を触るジェシカ。
 ヒラヒラと桜の花びらが舞い、鏡花のおでこにピタッと落ちる。

ジェシカ「あらっ」
鏡花「う?」
和仁「鏡花のおでこに桜が」
ジェシカ「やだ、かわいい♡」
鏡花「あー」※おててふりふり
和仁「ははっ、似合うな鏡花」
鏡花「あう」

ジェシカモノローグ「私たちの始まりは愛のない政略結婚だった。書類上だけの夫婦だった。
でも、お互いのことを知って惹かれて恋をして」

これまでの過去のシーンのダイジェスト。
寄り添い合う和仁とジェシカのアップ。

ジェシカモノローグ「本当に愛し合う夫婦になった。
そして、育まれた愛の中で大切な宝物を授かった」

鏡花のアップ。

ジェシカ「ねぇ、和仁さん」
和仁「ん?」
ジェシカ「これからもたくさん思い出を作りましょうね!」
和仁「――ああ、そうだな…三人で」

 おでこを寄せ合い、微笑み合う二人のアップ。

ジェシカモノローグ「私たち夫婦の、家族の幸せがこれからも続きますように。
願わくば永遠に――」


 桜の花びらが舞い散るシーンのエンディング。


fin.


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