【シナリオ版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

第三話


○玄関(夜)
和仁「ただいま」
ジェシカ「お帰りなさい!」

 笑顔で出迎えるジェシカに対し、無表情かつ無言だが安らぎを感じている和仁。

ジェシカ「今日はみんなで餃子を包んだんですよ!」
和仁「餃子か」
ジェシカ「はい!和仁さんが好きだと伺ったので!」
和仁「…あいつらそんなことを言ってるのか」


○玄関からダイニングへ
 スーツのネクタイを緩める和仁の仕草にキュンとするジェシカ。

ジェシカ「(和仁さんがネクタイ緩めるところってどうしてこんなにカッコいいのかしら…)」※うっとり
和仁「……」※視線を感じて呆れてる
ジェシカ(ニコニコ)
和仁「……君は本当に変わっているな」※ボソッと
ジェシカ「え?」※聞こえてない

ジェシカモノローグ「和仁さんは今日もカッコいいし、約束を守ってご飯はほぼ毎日一緒に食べてくれる。
政略結婚がこんなに充実してていいのかしら?」


○翌日・庭(昼)
 ガーデニングをしている最中、和仁の母・紗代子(さよこ)が話しかける。

●紗代子
和仁の母。常に和服を着ている上品な美人。一歩下がって夫を立てる昔ながらの良妻といった雰囲気。

紗代子「ジェシカさん、華道をやってみるつもりはない?」
ジェシカ「華道ですか?」

 ガーデニングをしながら振り返るジェシカ。

紗代子「知り合いが華道の家元でね。習ってみたらいいんじゃないかしら」
ジェシカ「興味あります!日本の伝統的な生け花ですよね」
紗代子「そうよ。あなたなら素敵な生け花ができるわ」※優しそうな笑顔


○華道教室
 紗代子の紹介で華道教室へ行くジェシカ。
 案内され、生け花の基本を教わる。ダイジェスト的な感じで。

ジェシカモノローグ「お義母様に紹介していただき、早速華道教室に通い始めた」

 生け花のアップ。
 美しい花に魅了されるジェシカ。

ジェシカ「(すごい…!なんて美しいの!
西洋とは違い、隙間や空間も美しさと捉える日本の生け花はとても奥が深い)」

ジェシカ「(綺麗に生けられるようになって和仁さんにも見てもらいたいな…)」

 教わりながら生け花を頑張るジェシカ。最初は苦戦しているが段々楽しくなっていく。


○ダイニング(夜)
 二人で夕食を食べている最中。

ジェシカ「それでお義母様に紹介していただいて、華道を始めたんです!」
和仁「そうか」
ジェシカ「難しいけど、日本の生け花という文化に触れられるのは楽しいですね」
和仁「君は日本文化が好きなのか?」
ジェシカ「あ、はい。母が親日家だったのでその影響で。
…一応ハーフだし日本生まれ、日本育ちなんですけど見た目がこんな感じだから、和物が好きだと変な顔されるんですよね」
和仁「どうして?」
ジェシカ「アメリカ人はアメリカ人らしくしろって…一応国籍は日本なんですけど」
和仁「誰がそんなこと言うんだ?」
ジェシカ「あ、日本人の義母(はは)です…」

ジェシカ「(多分義母は私の顔を見ていると、不倫相手を見ているようで気に入らないんだと思う)」

和仁「信じられんな…そんなことを言うのか」
ジェシカ「あっでも気にしてませんから!」
和仁「怒らないのか?」
ジェシカ「……」※ちょっと苦笑い
和仁「…うちでは君がやりたいことを好きにやるといい」
ジェシカ「え?」
和仁「一応ここは君の家でもあるんだからな。遠慮はするな」
ジェシカ「…!あ、ありがとうございますっ」

ジェシカ「(嬉しい…!君の家って言ってくれた。
お飾りの妻だけど、少しは家族になれているのかしら…?)」


○翌日・庭(朝)
 鼻歌を歌いながら洗濯物を干しているジェシカ。

ジェシカ「〜♪〜♪」
千原「姐さん、ご機嫌っすねぇ」
ジェシカ「あら、そうかしら?」
千原「兄貴といいことあったんすか?」
ジェシカ「えっ」※思わず顔が赤くなる
千原「あーー!その顔はやっぱりなんかあったんすね!」
ジェシカ「な、何もないわよっ」

ジェシカ「(千原さんや笹部さんは私たちが普通のお見合い結婚だと思ってるみたいだから…ちょっと心苦しいのよね。
実際は一緒に食事をする以外は何もないし)」

 鼻歌交じりにガーデニングをするジェシカ。

ジェシカ「〜♪」
ジェシカ「(でも昨日あんな風に言ってくれたのはすごく嬉しかったなぁ)」

笹部「…姐さん、顔赤いっすよ」
ジェシカ「や、やだ!そんなに!?」
笹部「いやそういうことじゃなくて」
ジェシカ「?」


○ジェシカの部屋
 体温計のドアップ。三十八度と表示されている。
 ヒキでベッドに寝ている具合が悪そうなジェシカ。

ジェシカ「(やってしまった…最近動き回ってたからかしら)」

千原・笹部「「姐さんは休んでくだせぇ!」」
※ディフォルメで心配してる様子

ジェシカ「(ダメね、みんなに迷惑かけて。せっかくこの家の仲間にしてもらえたと思ったのに…)」

○実家での回想
義母「風邪なんて引いてただでさえ迷惑なのに!」

○回想終了・ジェシカの部屋
ジェシカ「……」
ジェシカ「(元気でいなきゃいけなかったのに…和仁さんが知ったら呆れられてしまうかしら?あんなに良くしてもらってるのに、やっぱり邪魔だって思われたらどうしよう…)」

寝落ちるジェシカ。


○ジェシカの部屋・夢の中
 ほかほかという暖かな空気と美味しそうな匂い。

ジェシカ「(あれ、この匂いは…)」
ジェシカ母「ジェシカ!あったかいおかゆを作ったわよ」
ジェシカ「マム…?」

ジェシカ「(そうだ、風邪を引いた時はいつもマムがおかゆを作ってくれた…)」


○ジェシカの部屋・現実(夜)
 ジェシカを覗き込む和仁のアップ。

和仁「起きたか」
ジェシカ(えっ!?)

 ガバッと飛び起きるジェシカ。ヒキでジェシカのベッドの横に座っている和仁。

ジェシカ「かっ和仁さん!?どうして?」
和仁「千原から君が寝込んでいると聞いてな」
ジェシカ「(わざわざ早く帰って来てくれたの…?)」

 コツンとジェシカの額に自分の額を寄せる和仁。

和仁「熱はまだ少しあるようだな」
ジェシカ「!?」
和仁「…あ、すまない」※少し顔を赤らめて

 気まずそうにパッと離れる和仁と顔を真っ赤にしてドキドキするジェシカ。

ジェシカ「(今の何!?)」
和仁「食欲はあるか?」
ジェシカ「え?はい」
和仁「おかゆを作った」
ジェシカ「え!?和仁さんが作ってくれたんですか?」
和仁「ああ」

 ほかほかと温かくて美味しそうなおかゆのアップ。

ジェシカ「(和仁さんが私のために…?)」
和仁「すまん、いらなかったか?」
ジェシカ「あ、いえ!ありがとうございます!いただきます!」

 おかゆを一口食べるジェシカ。

ジェシカ「! おいしい!」
和仁「よかった。舎弟が風邪をひくと作ってやるんだが、それと同じノリで作ってしまった…」
ジェシカ「そうなんですか!?」
和仁「最近はあまりしないが、一応料理はできるんだ」

 キッチンに立つ和仁を想像してキュンとするジェシカ。

ジェシカ「ありがとうございます!すごく嬉しいです!」
和仁「こちらこそ気づいてやれなくてすまなかった。君に無理をさせていたのかもしれないな…」
ジェシカ「……っ」

 じわりと涙が滲んで泣き出すジェシカ。

和仁「えっ?」
ジェシカ「う……っ」
和仁「どこか痛いのか?」

 ジェシカ、ふるふると首を横に振る。

ジェシカ「違うんです…迷惑かけてしまったと思ってたから」
和仁「迷惑?どこがだ?」
ジェシカ「義母は私が風邪をひくと迷惑そうにしていたので…」
和仁「……」

 ポロポロ涙をこぼすジェシカの頭をポンと優しく撫でる和仁。

ジェシカ「…和仁さん?」
和仁「風邪くらい誰だって引くだろう。むしろ迷惑かけてやるくらいでちょうどいい。家族なんだから」
ジェシカ「え…でも、私たちは書類上の夫婦だって」
和仁「でも同じ屋根の下に住む家族であることには変わりないだろう」

 ジェシカ、千原の言葉を思い出す。
千原「兄貴の口癖なんすよ。桜花組というデカい家の中にいるもんはみんな家族だって」

ジェシカ「ううっ」
和仁「なぜもっと泣くんだ…」
ジェシカ「私、和仁さんと結婚してよかったです!」※泣き笑い
和仁「!」

 ジェシカの笑顔にドキッとする和仁。若干頬が赤い。
 和仁、気まずそうに目を逸らしながら尋ねる。

和仁「……愛がなくてもか?」
ジェシカ「愛ならいただいてますよ?」
和仁「え?」
ジェシカ「愛の形は恋愛だけではないと思います。舎弟の皆さんが和仁さんを慕うのも愛だと思いますし、和仁さんが家族だと言ってくれたのも愛でしょう?」
和仁「……」※驚いている
ジェシカ「夫婦としての愛じゃなくても、私は幸せです」
和仁「……」

 無言で立ち上がる和仁。表情は見えない。

ジェシカ「和仁さん?」※きょとんと和仁を見上げながら

 突然ジェシカのことを抱きしめる和仁。

ジェシカ「えっ…和仁さん!?」

 和仁に抱きしめられ、戸惑いが隠せないジェシカのアップ。

和仁「……」

 無言でジェシカを抱きしめる和仁のアップ(目は瞑っている)。
 ヒキで抱きしめられるジェシカのカット。
 ドキンドキンというジェシカの鼓動。
 和仁、ジェシカを離す。

和仁「…そろそろ戻る。何かあれば言ってくれ」
ジェシカ「は、はい…」
和仁「それじゃあ」

 踵を返し、部屋から出ていく和仁。
 一人になってから真っ赤になった頬を両手で押さえるジェシカのアップ。

ジェシカ「(今の何ーー!?)」

 一人ベッドの中で百面相するジェシカ。

ジェシカ「(なんで!?どうしてハグしたの!?)」
ジェシカ「あんなことされたら、勘違いしてしまうわ…」
ジェシカ「(夫婦として愛されているのかも、なんて……)」


○ジェシカの部屋から出た廊下
 ドアの前で立ちすくす和仁。
 アップで頬を赤らめる表情。

和仁「何をしてるんだ俺は……」


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