【シナリオ版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

第五話


※第五話は終始和仁の視点

○和仁の独白・回想
 結婚式のシーン。第一話冒頭と同じような感じで。

和仁モノローグ「結婚をする気はなかった。だが跡取りが欲しい父の命令で仕方なく結婚した。
かなり強引なやり方で見合い相手を見繕ってきたようで、極道そのものとも言える父のやり方に呆れるしかない」

 不適な笑みを浮かべる父・正仁のカット。

和仁モノローグ「書類上の妻になったジェシカは、はっきり言ってかなり変わっていた。
政略結婚の上に極道に身売りされたようなものなのに、少しも臆する様子がなかった」

 見合いのシーン。和仁の正面に座った着物を着たジェシカのカット。
(この時の和仁はジェシカのことをよく見ていなかったためどんな表情をしていたか覚えておらず、真顔で描写する)
(実際は興奮していた)

和仁モノローグ「夫となる男に「愛せない」と言われても笑顔で了承するので、彼女の思惑は何だろうと思い身の上を探らせた」

「愛せない」と言われた直後の微笑んで受け入れたジェシカのカット。
 訝しげに思う和仁のアップ。


○回想・結婚式の数日後・和仁の部屋
 和仁の右腕・峰、調査した内容を読み上げる。

(みね)
和仁の右腕。長髪ポニーテールの美人系。犬に例えるとゴールデンレトリバー。

峰「葉桜ジェシカ、二十四歳。職業は英会話教室の講師。あの容姿に少し天然な言動、また授業は真面目で特に男子生徒の人気はかなり高い。結婚を機に退職。
アメリカ人とのハーフ。父親は前妻の子としていたが、実際は不倫相手の子だ。彼女が十四歳の時に母親が亡くなっており、父親に引き取られた。
父は本妻との間に娘がいて、本妻とその娘からはかなり嫌な扱いを受けていたらしい。父は不倫相手の子を引き取ることになった負い目から強く言えなかったみたいだな」
和仁「(なかなか苦労してきたようだな)」
峰「彼女が冷遇されていたことは近所の間でも噂になっていたようだ。まあ一人だけ明らかに容姿が違うし、目立つんだろうな。
実家を早く出たいと思っていたのなら、政略結婚でもいいと思ったのかもしれない」

和仁モノローグ「それにしても極道の妻でもいいのか?よっぽど実家から出たかったのか…」

○更にその後の回想・庭
 舎弟たちと楽しそうにガーデニングをするジェシカを見つめている和仁。

和仁モノローグ「親に見捨てられた形でこの家に嫁がされ、哀れなのは確かなので極力彼女に窮屈な思いはさせないようにと思った。舎弟たちにもよく言って聞かせた。
そうしたらいつの間にか打ち解け、庭いじりまで始めていた」

 和仁の部屋に毎日飾られる花を見つめる和仁。

和仁モノローグ「俺の部屋には毎日違う花が一輪飾られるようになった」


○舎弟たちとの回想
 嬉しそうにジェシカのことを和仁に話す千原と笹部。

千原「姐さんが来てから桜花組が明るくなったっす!」
笹部「ああ、俺たちにも優しく気配りのできる方だ。流石兄貴、いい嫁さんをもらいましたね」

 他の舎弟たちも皆うんうん、と頷いてる。

和仁モノローグ「舎弟たちは口々にそう言った。みんなジェシカを慕うようになっていた。
確かにジェシカが来てから空気が明るく、穏やかになったような気がする」

 楽しそうに笑っているジェシカと舎弟たちのアップ。

和仁モノローグ「自然と笑い声が聞こえてくるようになった。何よりジェシカはいつも楽しそうだった」

 ジェシカのアップ(和仁がジェシカのことを気になり出しているので、キラキラで可愛らしく)。

和仁モノローグ「庭を綺麗にするだけでは飽き足らず、華道も習い始めた」

 居間で真剣な表情で花を生けているジェシカ。

和仁モノローグ「彼女の希望で食事を共にし、少しでもコミュニケーションを取るようになってわかったことがある」

 二人で食事をしているカット。

和仁モノローグ「ジェシカはいつも前向きだ。決して悲観せず、現状を受け入れてどう楽しむかをいつも考えている。
書類上だけの妻だと思っていたのに、段々と彼女に興味を持ち始めていた」

 和仁を優しく見つめながら食事をしているジェシカのアップ(ほんわかと癒されるような雰囲気)。


○第三話回想・ジェシカの部屋
 風邪を引いたジェシカを見舞う和仁。
 和仁手作りのお粥に驚きつつ、嬉しそうに食べるジェシカとそれを見つめる和仁。

和仁モノローグ「惹かれている自覚がありながら、認めたくなかった。
お粥は舎弟たち(あいつら)に作ってやったことがあったし、病人を気遣うのは当然だと思った。誰に言い訳してるのかわからなかった。
でも、ついに自分を誤魔化せなくなった」

ジェシカ「愛の形は恋愛だけではないと思います。舎弟の皆さんが和仁さんを慕うのも愛だと思いますし、和仁さんが家族だと言ってくれたのも愛でしょう?」
和仁「……」※かなり驚いている

和仁モノローグ「違う、家族だと言った言葉に深い意味はない。元々桜花組は皆が家族という信念なのだ。
書類上の妻でも同じ屋根の下で暮らしている以上は家族である、ただそれだけのことだ。
それなのに君はそんな風に受け取るのか」

 たまらずにジェシカを抱きしめる和仁。

和仁モノローグ「君のことが愛おしい。愛おしくてたまらない。
辛い目に遭っていた君のことを守りたい」


○現在に戻る・デパートの中
 レストランを探している二人。

和仁モノローグ「我ながらどうかしている。強引にジェシカの買い物について来たのも、彼女と一緒にいたかったから」

 チラリと視線をジェシカに向ける。頬を少し染めてジェシカに見惚れている表情。

和仁「(くるくると変わる表情が見たくて……なんて我ながら重症だな)」

自嘲気味に溜息をつく和仁。
レストランのあるフロアに行き、フロアガイドを見る。

和仁「何が食べたい?」
ジェシカ「和仁さんの食べたいものでいいですよ」
和仁「君は食べたいものはないのか」
ジェシカ「私は何でも食べますので」
和仁「…知りたいんだ」
ジェシカ「え?」
和仁「君が何が好きなのか」
ジェシカ「私の……?」
和仁「……いや、何でもない。忘れてくれ」※照れ臭そうに顔を逸らす
和仁「(我ながららしくないことを口走ったな…)」
ジェシカ「……」

 思い切った様子で切り出すジェシカ。

ジェシカ「あのっ、私おでんが好きなんです」
和仁「おでん?」
ジェシカ「母が作ってくれたり、コンビニで買ってきてくれたり、母と一緒に具を選ぶのが楽しくて…ささやかですけど母との思い出の味なんです」
和仁「そうか、なるほど…だがおでんの店はないな」
ジェシカ「あ、大丈夫です!母が和食好きでしたので、私も和食が好きです」
和仁「そうか。このとんかつ屋は結構美味いぞ」
ジェシカ「とんかつですか!大好きです!」
和仁「じゃあそうしよう。夕飯は家でおでんを作るか」
ジェシカ「いいんですか……?」
和仁「君のお母さんの味には負けるかもしれないが」
ジェシカ「そんなことないです!すごく嬉しいです……!」※涙が浮かんでいる

 ジェシカの涙を見て思わずギョッとした和仁。

和仁「どうした?」
和仁「(また泣かせた?)」
ジェシカ「え?やだ、ついこぼれてしまったみたい。だってすごく嬉しいんですもの」※涙を拭いながら
和仁「……これだけのことが?」
ジェシカ「和仁さんが私のこと知ろうとしてくれる気持ちが嬉しいんです。それに和仁さんは、いつも私のことを受け入れてくださるから。
実家ではいつも否定されてばかりだし、私の意思なんて誰も求めてませんでしたから」
和仁「(実家であれだけ冷遇されながら、慎ましく真っ直ぐに育ったものだな…)」

 ニコッと微笑むジェシカ。

ジェシカ「やっぱり和仁さんは優しいですね」
和仁「(……違う、優しいのは君の方だろう)」


○とんかつ屋
 とんかつ屋に入って食事をするシーン。
 とんかつに瞳を輝かせ、美味しそうに食べるジェシカ。そんな彼女を愛おしそうに見つめる和仁。

和仁モノローグ「愛のない政略結婚を受け入れ、悲観することなくいつも前向きで。
突拍子もないことをし始めることもあるが、いつも周囲への気配りは忘れない。
こんな俺にも温かく微笑みかけてくれる君が、愛おしくてたまらない。
もう誰のことも愛せない、愛したくないと思っていたのに――」

 とんかつ屋を出てから立ち尽くす和仁に、きょとんとするジェシカ。

ジェシカ「……和仁さん?どうかしましたか?」
和仁「――あ、いや、何でもない……。駐車場に戻ろう」
ジェシカ「はい」


○駐車場
 車に乗り込む二人。

和仁「(全く自分は何をしているのだろう。ジェシカにあんなに冷たいことを言っておきながら、やっぱり愛しているだなんて言えるわけがない)」

 シートベルトを締めているジェシカを横目で見つめる和仁。

和仁「(そもそも俺に対して恋愛感情はないのだろう。
顔が好きだと言われたことはあるが、今更夫婦らしさなんてものは求めていないだろうしな)」
和仁「……あ。すまない、先に駐車券の清算をしてくる。車の中で待っていてくれるか」
ジェシカ「わかりました」


○数分後・駐車場
 駐車券の精算を終えて車に戻った和仁。車の中にはジェシカがいない。

和仁「……ジェシカ?」

 キョロキョロと周囲を見回す。段々焦り始める。

和仁「ジェシカ!どこにいる?」

 電話をかける。和仁から割と近い距離から着信音が聞こえる描写。
 ジェシカのスマホが地面に落ちている。
 血の気が一気に引くような和仁のアップ。

和仁「……!!」

 ジェシカのスマホを拾い上げ、急いで電話をかける。

和仁「もしもし峰かっ!?」
峰『若?何かあったのか?』
和仁「ジェシカが攫われた!!」
峰『何だって!?』
和仁「(確証はないが、ほぼ間違いない。ジェシカは何者かに連れ去られたんだ…!)」
和仁「全組員総動員してでも探してくれ!」
峰『わかった、すぐに手配する』

 電話が切れ、焦りと悔しさと自分に対する憤りが入り混じった表情の和仁。

和仁「クソ……ッ!!」
和仁「(桜花組次期組長の妻が狙われないはずがない。自分の立場も忘れて、何を浮かれていたんだ俺は)」

 頭をガシガシと掻きむしり、車に飛び乗って全速力で発車する。

和仁「(頼む、どうか無事でいて欲しい。頼むジェシカ……!!)」


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