【シナリオ版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

第六話



○謎の場所「(どこかの倉庫)」
 手足を縛られた状態で椅子に座らされているジェシカ。気を失っていたがハッと目を覚ます。

ジェシカ「(ここはどこ……?何があったんだっけ?)」

 ジェシカ、連れ去られる直前のことを思い出す。
 駐車場で倒れている男性を見かけ、慌てて車から出て駆け寄った。その直後、何かを嗅がされて気を失う。

ジェシカ「(えっと…和仁さんを待っている間、急に駐車場で男性が倒れて苦しみ出して。
慌てて車から出て駆け寄ったら、急にその人が起き上がって何かを嗅がされて……そのまま意識を失ったんだわ)」

男「気が付いたか」
ジェシカ「!」

 謎の男が現れる。見た目は二十代前半くらいで痩せ型の長身。ギョロリとした目の下にクマがあり、顔色はあまり良くない。
 黒いスーツを着ていて、シルバーリングがいくつも嵌められていた。口元にはピアスをしている。

ジェシカ「(誰?何となく雰囲気からこの人も極道なのかしら?)」

男「お前が吉野和仁の女だな」
ジェシカ「……」
男「外人の嫁をもらっていたとは生意気だ」
ジェシカ「(一応国籍は日本人なんですけど)」※ムッとした表情
男「今のお前の姿を見たら、どう思うだろうな」

 顔を近づけて不気味な表情でジェシカを睨み付ける。

ジェシカ「…どうしてこんなことをするんです?」
男「あの男が憎い以外の理由がいるか?あいつは俺から大事な人を奪い、それなのにのうのうと生きていつの間にか結婚して。ふざけやがって……!あいつは人殺しなんだよ」
ジェシカ「(和仁さんが人殺し?)」
男「あの男だけは絶対に許さねえ」※憎々しげに
ジェシカ「和仁さんは人殺しなんかじゃありません」
男「お前が知らねえだけだよ!!あの男さえいなければ、美桜(みお)お嬢さんは死なずに済んだんだ……っ!!」
ジェシカ「(ミオお嬢さん……?誰のことかしら?)」
男「それなのに、お嬢さんのこと忘れたかのように他の女とあっさり結婚しやがって」
ジェシカ「(どういうこと……?)」
男「絶対許さねえ!!」
ジェシカ「……っ!!」※ビクッと怯える
ジェシカ「(こ、こわい……)」

 カチャリ、と男が拳銃が取り出して銃口をジェシカに向ける。ちょうどジェシカの額に触れるスレスレくらい。

ジェシカ「!!」
男「あの世でテメェの旦那を恨むんだな」
ジェシカ「……っ!!」
ジェシカ「(私、このまま死ぬのかな……?
嫌、怖い、死にたくない。
助けて、和仁さん――……!!)」

 怯えながらギュッと目を瞑るジェシカ。

和仁「――ジェシカ!!」

 ドアを押し破ってきたのは、息を切らした和仁。バーン!という感じで勢いよく。かなり必死にジェシカを探していた。

和仁「!!」
ジェシカ「和仁さ……っ」
男「動くな」

 男は銃口、直接ジェシカのこめかみに押し当てる。
 恐怖で固まるジェシカ。

和仁「……妻を離せ」

 和仁、豹変したようにドス黒いオーラに血走った眼、激しい怒りが全身から滲み出ている。
 一歩一歩近づく和仁。

男「お、おい来るな!この女がどうなってもいいのかっ!」

 男、和仁のオーラに圧倒され、銃を持つ手が震えている。
 和仁、そんな脅しに怯みもせず、大股歩きで近づく。

男「く、来るなって言ってるだろ!」

 ジェシカ、思わず目を瞑る。
 ドン!という効果音。ハッと目を開けるジェシカ。ほんの数秒の出来事。
 男、その場に倒れ込こみ、地面に銃が転がり落ちる。
 銃はすぐに和仁が拾い上げ、銃口を犯人に向ける。

ジェシカ「(え……?何が起きたの?目を瞑った数秒の間に形勢逆転してる?)」

男「う、撃てよ!」

 尻餅をつきながら、喚く男。

男「殺せよ!!この人殺しがっ!!」

 和仁、無言で銃口を突き付けている。引き金に指がかかるカット。

ジェシカ「(ダメ、やめて和仁さん……っ!!)」
ジェシカ「(声が出ない……っ!!)」

 パァン!という銃声。
 銃弾は男の頬から数ミリを掠めた。男の頬からツー、と血が滴る。

和仁「……失せろ」
男「ヒィ……っ!!」

 和仁のオーラに完全に圧倒された男は戦意喪失し、その場に崩れ落ちた。
 和仁は銃を下ろし、ジェシカの元に駆け寄って縄を解く。

和仁「大丈夫か?」
ジェシカ「……っ!」※反射的にビクッとする
和仁「俺が怖いか?」
ジェシカ「(あ、違う。そういうわけじゃないのに……)」
ジェシカ「あの、」
和仁「巻き込んで悪かった」

 先程までの激しいオーラは形をひそめ、ジェシカに向かって頭を下げる。

和仁「もう君には近づかない」
ジェシカ「……!」
ジェシカ「(違うのに。助けに来てくれて嬉しかった。和仁さんが来てくれなければ、死ぬかと思った。
だから、そんなに寂しいこと言わないで――……)」

峰「若!」

 和仁が破ったドアから峰が現れて駆け寄る。

ジェシカ「(あの人は和仁さんの右腕の峰さん)」
峰「大丈夫か?」
和仁「ああ」
峰「姐さんも無事でしたか」
ジェシカ「はい……」
峰「あの男の身柄を引き渡す準備はできている」

 峰の背後からスーツを着たかなり長身の男性が現れる。身長は百八十センチくらい。
 その人物を見た途端、ジェシカを拉致した男は顔面蒼白になって怯え出す。

染井(そめい)義徳(よしのり)
桜花組と双璧をなす極道・染井一家の若頭。身長百八十センチのモデルのような体型。
黒髪をオールバックにした一重のイケメン。

男「わ、若頭……っ!!」
義徳「テメェ、随分勝手な真似してくれたみてぇだな」

 瞳孔が開いていてかなり激怒している義徳。
 男は完全に縮み上がっていている。
 和仁と義徳、対峙する。
 全身カットからのそれぞれのアップ。

義徳「吉野、久しぶりだな」
和仁「……鬼頭(きとう)。いや、今は染井(そめい)だったか」

※鬼頭は旧姓

義徳「テメェに呼ばれる名なんかどうでもいい」
和仁「……」
義徳「今回の件はウチの者の不始末だ。ここは俺に任せてもらおうか」
和仁「後処理は任せる」

 和仁、峰のほうを振り向く。

和仁「峰、ジェシカのことを頼む」
峰「わかった。行きましょう、姐さん」
ジェシカ「はい…」

 峰に付き添われ、その場から立ち去ろうとするジェシカ。
 不安そうに和仁の方を振り返るが、和仁がこちらを向くことはなかった。


○峰の運転する車の中
 後ろの席に座っているジェシカ、おずおずと峰に尋ねる。

ジェシカ「あの、和仁さんは大丈夫なんですか……?」
峰「大丈夫です。姐さんこそ怖い思いをされたでしょう?我々がついていながら申し訳ございません」
ジェシカ「いえ、そんなこと!和仁さんが来てくださいましたから」
峰「若は随分あなたのことを心配しておられましたよ。あんなに取り乱す若は久しぶりに見ました」
ジェシカ「(和仁さんが……?)」※きゅうっと胸が締め付けられる
ジェシカ「あの、さっきの人は…?」
峰「あれは桜花組と双璧をなすと言われる染井一家の若頭・染井義徳です」
ジェシカ「双璧?」
峰「はい、桜花と染井は関東極道の中でも強い勢力を持ち、古くから敵対関係にあります」
ジェシカ「(要するにライバルってことかしら?)」
峰「但し、互いの組長が和議を交わしているので表向きは争うことはありません。それでも長年の因縁で両組の関係は歪なものですが」
ジェシカ「つまり、対立する桜花組の妻だから私は拉致されたってことですか?」
峰「……それだけではなさそうですが、まあそういうことです。今回の件は大事にせず、染井の方で落とし前を付けるでしょう。
姐さんをあんな目に遭わせてしまったのに申し訳ないですが、どうかご容赦ください。桜花と染井が本気でやり合うことになれば、戦争と変わりませんから」
ジェシカ「はあ…」

ジェシカモノローグ「正直言ってあまり理解はできていなかった。
とりあえずは染井一家という敵対組織の組員が行ったことみたいだけれど、何だか腑に落ちない。
敵対する桜花組の次期組長を恨んでの犯行だけではなかったような気がする。
和仁さんが人殺しだとか、ミオお嬢さんがどうとか。
でも、私が聞いてもいいことなのかな…」


○吉野家の邸宅前(夜)
 車から降りたジェシカをすぐに舎弟たちが取り囲む。

千原「姐さん大丈夫でしたか!?」
笹部「無事でよかったです!」
ジェシカ「心配かけてごめんなさい。大丈夫よ」
千原「よかった…!!」
ジェシカ「(すごく怖かったけど、みんなが心配してくれることが嬉しい。ここはもう私の家なのね)」


○吉野家の居間(夜)
 舎弟たちが夕飯の準備をしている。大きなテーブルの上に大きな鍋が置かれている。鍋の中身はほかほかと湯気が立ち込める美味しそうなおでん。

ジェシカ「…ごめんなさい。私は後で食べるわ」
千原「いいんすか?兄貴から今夜はおでんにしろって言われてたんすけど」
ジェシカ「いいの。和仁さんと一緒に食べたいから」


○ジェシカの部屋
 一人部屋に戻り、ベッドの上に腰掛ける。

ジェシカ「(早く和仁さんに会いたい。さっきのことも謝らなくちゃ)」

 和仁を拒絶するような素振りをしてしまったシーンの回想。

ジェシカ「(ついあんな反応してしまったけど、和仁さんのことが怖かったわけじゃない。
ただちょっとだけ、びっくりしちゃったの。極道らしい一面を初めて見てしまったから)」
ジェシカ「ちゃんと伝えなきゃ…」

 目を閉じて祈るように胸を押さえるジェシカ。

和仁「ただいま」

 その声にハッとして玄関まで駆け寄る。

ジェシカ「お帰りなさい!」
和仁「ジェシカ…まだ起きてたのか。眠れないのか?」

 驚いた表情を浮かべつつ、ジェシカを労るような優しい視線の和仁。

ジェシカ「(あの時はそれどころじゃなかったけど…和仁さんが私の名前を呼んでくれた。それだけでドキドキする)」
ジェシカ「和仁さんのこと待ってたんです」
和仁「そうか。遅くなって悪かった。俺も話があるから、後で部屋に来てくれるか」

 ジェシカ、こくりと頷く。


○和仁の部屋(夜)
 緊張した面持ちのジェシカが意を決してドアをノックする。

和仁「どうぞ」
ジェシカ「……失礼します」

 ドアを開けると、部屋着を着て風呂から上がったばかりの髪の濡れた和仁がいる。首にタオルをかけて髪を拭いている色っぽい雰囲気の和仁。

ジェシカ「(うっ…色っぽすぎて顔が見られない…)」

 頬を染めてドギマギするジェシカ。

和仁「どうした?座らないのか」
ジェシカ「あ、はいっ」

 旅館にあるような椅子に腰掛け、お互いに向かい合って話す。

和仁「今日は本当にすまなかった。俺のせいで危険な目に遭わせてしまった」※頭を下げる
ジェシカ「い、いえ!私の方こそ助けに来てくれてありがとうございます。和仁さんが来てくれなきゃ、どうなっていたか…」
和仁「怖がらせてすまない」
ジェシカ「あ、あれも誤解で……」

 和仁はある紙をジェシカに向かって差し出す。
「離婚届」と書かれた文字。
 衝撃を受けるジェシカのカット。

和仁「離婚しよう」
ジェシカ「(どうして……?)」
和仁「俺といたらまた君に危害が及ぶかもしれない。これ以上君を巻き込むわけには……」
ジェシカ「離婚して、実家に帰れと言うのですか?」

 俯いて震えているジェシカ。表情は見えない。

ジェシカ「実家に戻っても私の居場所はありません…それでも帰れと言うのですか?」
和仁「ここにいるよりは安全だ」
ジェシカ「危険でも帰りたくありませんっ!」

 顔を上げたジェシカの目には大粒の涙がこぼれている。

ジェシカ「私がいたら足手まといかもしれません。でも嫌ですっ」
和仁「君が桜花組の妻である限り、またあんなことになるかもしれない。……俺は所詮あっち側の人間なんだ。また君を怖がらせて傷つけるかもしれない」
ジェシカ「平気です!今日だってびっくりしただけで、怖かったわけじゃないんです。和仁さんのこと怖がるなんてあり得ません」
和仁「ジェシカ……」
ジェシカ「私、和仁さんの傍にいたい……」
ジェシカ「(溢れ出る涙とともに自分の想いを自覚した。私は和仁さんのことが好きなんだ)」
ジェシカ「和仁さんと離れたくないです……っ」

ジェシカモノローグ「愛せないのはわかってる。愛して欲しいなんて望まないから。
せめて傍にいさせてください――」

和仁「ジェシカ……っ」

 和仁、立ち上がってジェシカを抱きしめる。

和仁「……本当に俺でいいのか?」
ジェシカ「っ、和仁さんがいいんです……」
ジェシカ「(むしろあなたじゃなきゃダメなの)」
ジェシカ「離婚なんて言わないで……っ」
和仁「すまない……」

 子どものように泣きじゃくるジェシカを和仁はきつく抱きしめ続ける。
 しばらくして落ち着いたジェシカを少し離し、和仁は指で涙を拭う。
 二人の視線が絡み合い、引き寄せられるようにキスをする。

和仁「……ダメだな」

 和仁、こつんと額をくっつける。

和仁「一度触れると歯止めが効かなくなりそうだ」
ジェシカ「効かなくなってはいけないのですか?」
和仁「言っただろう、君を傷つけたくない」
ジェシカ「和仁さん、私をワレモノか何かだと思ってません?」

和仁の手を握り、そっと自分の頬に当てるジェシカ。

ジェシカ「受け止めますよ。だって私、和仁さんの妻ですから」
和仁「ジェシカ……」

 二度目のキスはより深く甘く。
 ドキドキと色気たっぷりなキスシーン。
 ジェシカをひょいと抱き上げ、優しくベッドに寝かせる。和仁はジェシカに覆い被さり、二人は見つめ合う。

ジェシカ「和仁さん……」
和仁「誰も愛さない、愛したくないと思っていたのに…気づいたら君が好きで、愛おしくてたまらなかった」
ジェシカ「私も好きです……和仁さんのこと」
和仁「ジェシカ……」

 再びキスからのベッドシーン。
 色気と甘々たっぷりに。

ジェシカ「ん…っ、あ……っ」
和仁「愛してる」
ジェシカ「……っ」
和仁「愛してる、ジェシカ」
ジェシカ「(そう囁かれる度に泣きたくなる程嬉しくて……何度も抱きしめ合って求め合った。
本当の夫婦になれたこの夜のこと、私は生涯忘れない)」

 情事後、寄り添い合って眠る二人の姿。
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