【シナリオ版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

第八話



○ダイニング「(朝)」
 仕事に行くために着替えてネクタイを結んでいる和仁。ジェシカ、朝食の準備をしている。

和仁「……」
ジェシカ「〜♪」※楽しそうに朝食を並べる
和仁「ジェシカ」
ジェシカ「はい?」
和仁「実は…今朝君のスマホを見てしまったんだが」
ジェシカ「そうなんですか?別に見られて困るものはないですけど」
和仁「悟、というのは?」
ジェシカ「ああ!大学の同級生です。同じゼミで昨日たまたま会ったんですよ。このサボテンをプレゼントしてくれたんです」

 もらったネズミっぽい小さなサボテンを見せる。

和仁「このサボテン、そうだったのか」
ジェシカ「悟くんも観葉植物が好きなんですって」
和仁「ふうん…」
ジェシカ「たまたまサボテンを見てたらバッタリ再会して、結婚したと言ったらプレゼントしてくれました。ネズミみたいでかわいいですよね!」
和仁「…結婚したと言ったのか」
ジェシカ「えっダメでした!?」
和仁「いや」

 和仁、ジェシカの左手を取る。

和仁「やっぱり指輪が必要だな。次の休みに買いに行くか」
ジェシカ「えっ!?でも指輪はいらないって」
ジェシカ「(結婚する時指輪をどうするか聞かれたけど、そこまでお金をかけてもらう必要ないと思って断ったのに)」
和仁「いやダメだ。君は俺の妻だと一目でわからないと」
ジェシカ「!」※キュンとする
ジェシカ「(嬉しすぎてにやけちゃう…)」
ジェシカ「ありがとうございます…」


○書斎(午後)
 和仁が仕事に行ってからご機嫌なジェシカ。掃除がてら書斎の整理をしている。
 何かの本の間から写真が一枚滑り落ちる。それを拾い上げてみるジェシカ。

ジェシカ「あら…?」

 写真に写っていたのは、今よりも若い和仁とセーラー服を着た黒髪セミロングの少女。和仁は堅い表情をしているが、少女は和仁の腕を組んで笑顔でピースしている。

ジェシカ「これは…」

 廊下からドタドタという騒がしい足音。

千原「姐さん!!大変ですっ!!」
ジェシカ「えっ?」
千原「今すぐ来てください!!」

 千原の血相を変えた表情に驚きながら、ジェシカは慌てて千原についていく。写真は書斎のテーブルに置いた。


○居間
 組員たちが集まっている。その中央に峰に支えられ、腕を負傷した和仁の姿がある。腕からは痛々しく血が流れており、片手で押さえている。
 一瞬にして血の気が引き、和仁に駆け寄るジェシカ。

ジェシカ「和仁さんっ!!」
和仁「ジェシカ…」
ジェシカ「どうして!?何があったの!?」
峰「撃たれたんです。別の組の者に」
ジェシカ「そんな…っ!!」
峰「これから馴染みの医者のところに行ってきます」
ジェシカ「私も行きます!」
和仁「ダメだ」
ジェシカ「どうしてですか!?」
和仁「ジェシカはここにいろ。絶対外には出るな」
ジェシカ「でも……っ」
和仁「絶対出るな」※怖い顔
ジェシカ「!!」※ビクッとする
和仁「…千原、笹部」
千原・笹部「「はい!」」
和仁「ジェシカを頼む」
千原・笹部「「はっ!」」※深々頭を下げる

 峰に支えられながら立ち上がり、病院へと向かう和仁。

ジェシカ「っ、和仁さん…っ」

 ボロボロと泣きじゃくるジェシカ。


○ジェシカの部屋
 部屋にこもって一人で泣き続けるジェシカ。

ジェシカ「うっ、うっ…」

 コンコンというドアのノック音。

千原「姐さん、飯食べないんすか?」
ジェシカ「いらない…」
千原「……」

 困った表情を浮かべながら、その場を立ち去る千原。
 しばらくして再びコンコンというノック音。

笹部「すんません、姐さん。姐さんに謝りたいって奴がいるっす」

 笹部の隣には小太りでスキンヘッドの組員がいる。表情はとても申し訳なさそう。ドア越しに話しかける。

組員「姐さんすみません!!兄貴が撃たれたのは俺のせいで…っ」
ジェシカ「!」
組員「兄貴は俺のこと庇ったんです…っ。でなきゃ兄貴が怪我なんてするわけねぇ!俺のせいですみません!!」
ジェシカ「……」

 ガチャリとドアを開けるジェシカ。目は真っ赤に腫れている。

組員「姐さん…」
ジェシカ「謝らないで…きっと和仁さんは次期組長として当然のことをしたんだと思うから」
ジェシカ「(仲間を守るのもきっと和仁さんの使命…)」
笹部「姐さん!兄貴は姐さんを怒ったんじゃねぇ!姐さんのことが心配で!」
ジェシカ「それもわかってるわ…」
ジェシカ「(和仁さんは私の身の安全を考えてくれた。それはわかるけど、私が思っていた以上に極道という世界のことをわかってなかった…。
命の危機とこんなにも隣り合わせだったなんて…)」


○ジェシカの部屋(夜)
 ドンドンという激しいノック音。ベッドの上で横になって寝ているジェシカ。泣き腫らした顔。

千原「姐さん!!兄貴帰ってきました!!」
ジェシカ「!!」

 ハッとして飛び起き、急いで玄関まで駆け寄る。


○玄関
ジェシカ「和仁さんっ!!」
和仁「ジェシカ…」

 腕に包帯を巻いている和仁の姿を見て、ボロボロと泣き出すジェシカ。勢いよく駆け寄って和仁に抱きつく。

ジェシカ「和仁さん!!無事でよかった…っ」
和仁「大丈夫だ…」

 和仁、ジェシカのことを包み込むように抱きしめる。


○和仁の部屋
 和仁の着替えを手伝っているジェシカ。

ジェシカ「腕、痛みますか?」
和仁「大したことない、擦り傷だ。医者が大袈裟なだけだよ」
ジェシカ「でも撃たれたんでしょう?」
和仁「心配するな。急所は外してるから本当に大したことないんだ」

 和仁、ジェシカの頭をポンと優しく撫でる。

和仁「…ジェシカ、すまないがしばらく帰れなくなる」
ジェシカ「え……」
和仁「君もなるべく外出は控えてくれ。外出するなら必ず千原か笹部を連れて行くんだ」
ジェシカ「和仁さんは大丈夫なの?」
和仁「大丈夫だ。心配するな」
ジェシカ「〜〜っ」
和仁「そんな顔しなくていい。必ず無事に帰るから」

 優しくジェシカを抱きしめる。

ジェシカ「…絶対無事で帰ってきて」


○数日後・ジェシカの部屋(夜)
 デスクに向かって花を生けるジェシカ。

ジェシカモノローグ「それから和仁さんはなかなか帰って来なかった。最初は毎日連絡をくれていたけど、今は音沙汰がない」

 花を生けながらチラリとスマホを見やるが、連絡はない。

ジェシカモノローグ「何が起きているのかみんな教えてくれないし…」

 ブブ…とスマホが鳴る。ハッとして画面を見ると、「非通知」と表示されていた。

ジェシカ「(誰…?)」

 恐る恐る電話に出る。

ジェシカ「もしもし…?」
和仁『ジェシカか…?俺だ、和仁だ』
ジェシカ「和仁さん!?」

 ガタッと立ち上がる。

ジェシカ「今どこにいるんですか!?」
和仁『すまない…詳しくは言えないんだ…』
ジェシカ「何があったの!?」
和仁『ジェシカ、頼む。お前にしか頼めない』
ジェシカ「何!?私にできることならなんでもするわ!」
和仁『俺が今から言う場所に来てくれないか?誰にも気づかれずに…』
ジェシカ「一人で?でも和仁さんが一人で外出するなって」
和仁『イレギュラーだ…頼む、誰にも見つからないように一人で来てくれ…』
ジェシカ「わ、わかりました」


○裏口(夜)
誰にも見つからないように気をつけながら、裏口から外に出るジェシカ。

ジェシカ「(えっと、指定されたのはこの先の公園…)」


○公園(夜)
 誰もいない暗い公園。街灯が怪しく光っている。キョロキョロと辺りを見回し、和仁を探すジェシカ。

ジェシカ「和仁さん?どこにいるの?」
???「ジェシカ!」
ジェシカ「! 和仁さん!?」

 ジェシカ、パッと振り返る。

ジェシカ「(え……?)」
悟「ジェシカじゃん!どうしたんだ?」

 スーツを着た悟が笑顔で片手を挙げている。

ジェシカ「悟くん…?どうして?」
悟「見てわからない?仕事の帰りだよ」
ジェシカ「あ、そっか…」

 ハッとするジェシカ。

ジェシカ「(待って、ここに悟くんがいるのはマズイんじゃない!?何が起きてるかわからないけど、悟くんが巻き込まれるかもしれない…!)」
ジェシカ「悟くん!ここから離れて!」
悟「え?」
ジェシカ「ここは危ないかもしれないの!」
悟「どういうこと?」
ジェシカ「それは…」
ジェシカ「(なんて説明すればいいのかしら…)」
ジェシカ「……」

 俯くジェシカ。

悟「どうしたんだ?てゆーかなんでジェシカはここにいるんだよ?」
ジェシカ「えっと…」
悟「もしかして、旦那さんと待ち合わせてた?」
ジェシカ「え!?」
ジェシカ「(どうしてそのことを……)」
悟「ごめん、ジェシカ……あの男は来ないよ」

 ものすごい笑顔を向ける悟。不自然な程笑顔で不気味さがある。

ジェシカ「え……!?」※ゾワっとする

 ジャキ、という銃を構える音。どこからか現れたのか、二人の男がジェシカに向かって銃口を突き付ける。

ジェシカ「……っ!!」
悟「ごめんな、ジェシカ……」

 スーツの中から何かを取り出そうとする悟。影で表情が見えないように。

悟「騙してごめん」

 全く悪びれる様子のない笑顔でジェシカに銃口を向ける悟。めちゃくちゃ悪人らしく。

ジェシカ「(どういうことなの……!?)」


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