【シナリオ版】不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

第九話



○公園(夜)
 怯えるジェシカを二人の男が銃を突き付け、目の前では不敵な笑みを浮かべる悟がいる。やはりジェシカに向かって銃口を向けている。

ジェシカ「どういうこと…?」
悟「こういうこと」

 悟、銃を向けたまま袖のボタンを外して腕を見せる。腕には刺青が彫られている。

ジェシカ「え……」
悟「改めて自己紹介するよ。俺は梅津悟。極道・梅津組組長の息子だ」
ジェシカ「(悟くんが極道!?)」
悟「ジェシカの苗字が吉野って聞いた時はまさかと思ったよ。極道(おれら)の世界で吉野といえば、あの桜花組だからさ。カマかけてみれば、ビンゴだったわけだ」
ジェシカ「あの電話はわざとだったの?」

 ジェシカの夫のことを尋ねてきた電話の回想シーン。

悟「そうだ。半信半疑だったけど、マジで吉野和仁と結婚してたんだな」
ジェシカ「さっきの電話は…」
悟「意外と声真似上手くね?電話越しの声ならワンチャンいけるかな〜って。結構似てただろ?」※笑顔
ジェシカ「(あの電話も嘘…!)」
ジェシカ「…本当に悟くんなの?」
悟「何が?」
ジェシカ「だって悟くんは人を騙すようなことする人じゃない。いつも明るくて誰にでも優しい人だったじゃない!」
悟「あーー…あれはカタギ用のツラだから」

 めんどくさそうな顔の悟。

悟「俺兄貴が二人いるんだけどさぁ。三男だからか親父は俺に全く興味がないんだよね。跡取りにする気なんか一ミリもないんだよ。
だから敢えてカタギのフリして大学行って会社にも勤めてんだ」
ジェシカ「どういうこと?」
悟「極道に必要なものは?金?権力?圧倒的な力?俺はそのどれでもない、独自の道を選んだ。俺が重要視してんのは“情報”だよ」

 勝ち誇ったような悟のアップ。

悟「情報ってのは強い武器になる。人脈ってやつもかなり大事だ。俺はカタギに溶け込み、様々な情報を集めてる。だからこそ吉野和仁の嫁がお前だってことに辿り着けたんだよ、ジェシカ」
ジェシカ「どうして和仁さんを狙うの?」
悟「桜花組次期組長のタマ取ったら俺が跡取りになれるかもしれねぇだろ?」

 私利私欲にまみれた冷酷な笑みを浮かべる悟に、愕然とするジェシカ。

ジェシカ「(あの優しかった悟くんは全部嘘だったの…?)」

 大学時代の回想シーン。ゼミの課題を一緒にこなす悟とジェシカ。ジェシカの記憶の中の悟はいつも明るい笑顔だった。

ジェシカ「私をどうする気…?」
悟「お前を人質にして吉野のドタマブチ抜こうと思ってたんだけど、そうだなぁ。俺の嫁にしてやってもいいよ」
ジェシカ「な、何を言ってるの…?」※震えている
悟「極道の嫁になるってことは鬼畜な男が好きってことだろ?俺とかピッタリじゃね?」※超笑顔
ジェシカ「やめて…!」
悟「大学の時からジェシカとはヤってみたいと思ってたんだぁ。その白い肌を赤く染めたらどうなるのかなって」

 ペロリと舌舐めずりをする悟。

ジェシカ「……っ!!」

 ゾクッ…という効果音。
 恐怖と嫌悪感に震えて動けないジェシカを二人の男が拘束する。

ジェシカ「(いや、こわい、助けて……!!)」
ジェシカ「和仁さん……っ!!和仁さん!!」
悟「マジでジェシカってなんでアイツと結婚したんだよ?」
ジェシカ「あなたには関係ないわ!」
悟「じゃあ知ってるか?吉野和仁には忘れられねぇ女がいるってこと」
ジェシカ「(え……)」

 ハッと小馬鹿にしたように笑う悟。

悟「もしかしてその顔、知らなかったのかよ?」
ジェシカ「……」
悟「嘘じゃないぜ。俺の情報網は確かだからな。あの男にはかつて愛した女がいた。
お前は所詮その女の代わりなんだよ!!」※ゲス顔

 唇を噛み締め、俯くジェシカ。

ジェシカ「…聞きたくない」

 震えが止まらないけど、強い目で悟を睨みつけるジェシカ。

ジェシカ「他の人から和仁さんの話なんて聞きたくないし、私は和仁さんのこと信じてる!」
悟「へぇ……」
ジェシカ「今は私のことを愛してくれてるわ」
悟「じゃあ、アイツの目の前でブチ犯したらどんなツラするのかなぁ」
ジェシカ「!?」
悟「お前のこと愛してんなら、自分の嫁が他の男に犯されてたらどう思うんだろうなぁ!?」※目がイってる
ジェシカ「いや……」※ガクガク震える
ジェシカ「(和仁さん、和仁さんっ!!)」

 パァン!という銃声。

悟「うぐっ」

 呻き声をあげ、銃を落とす悟。その手には血が滴っている。

 パン!パン!
 二発の銃声の後、ジェシカを拘束していた男が倒れる。急所は外しているが、足を撃たれて起き上がれない。
 何が起きているのかわからず、戸惑うジェシカ。
 グイッと肩を引き寄せられ、抱き寄せられる。

ジェシカ「!! 和仁さん…っ」

 ジェシカの肩をしっかりと抱き寄せ、視線と銃口は悟に向ける和仁。見せ場のシーンなので大きくカッコよく。
 和仁の怒りに満ちた表情のアップ。イケメンだけどブチギレてる。

悟「吉野和仁…なんでここに!?俺の部下が総出でテメェを…っ」

 腕を押さえたまま焦った表情で和仁を睨みつける。

和仁「あの雑魚どもか?全員倒したが?」
悟「あの人数を…!?」
和仁「そんなことより、」

 ジャキ、とリボルバーを回す音と手元のカット。

 和仁「俺の妻を泣かせた落とし前はどう付けるんだ…?」

 瞳孔が開いている。鬼のようなオーラ。とにかくブチギレな感じ。

悟「……!!」

 悟、和仁のオーラに圧倒されているが、歯を噛み締めてもう一丁の拳銃を構える(ベルトにもう一丁ぶら下げていた)。

悟「そんなん知るか!!夫婦であの世に送ってやるよ!!」
ジェシカ「……!」

 ギュッと目を瞑り和仁にしがみつくジェシカ。ジェシカを強く抱きしめ、悟が発砲するより先に発砲し、的確に銃を撃ち落とす。

悟「ぐはっ」

 勢いで倒れ込む悟。その悟の背後から峰たち桜花組の組員が現れ、悟を拘束する。倒れていた梅津組の組員も連れて行かれる。

峰「若、あとは俺たちにお任せを」
和仁「ああ、その前に…」

 ツカツカと悟の方へ近づくと、その顔面に重いパンチを食らわせる。気絶寸前で血を流す悟の胸倉を掴み、鬼の形相で脅す和仁。

和仁「二度とその汚いツラをジェシカに晒すな」
悟「ぐ…っ、この鬼が…」※直後、意識を失う

 連行される梅津組の組員たち。
 和仁の背中に向かって呼びかけ、駆け寄るジェシカ。

ジェシカ「和仁さん…!」
和仁「ジェシカ…!!」

 ぎゅうっと強くジェシカを抱きしめる和仁。

和仁「ジェシカ、怪我はないか…?」
ジェシカ「はい…っ」※ボロボロと涙をこぼす
和仁「よかった、無事でよかった…!」

 更に強く抱きしめる和仁。ジェシカは安心して涙が止まらなくなる。

ジェシカ「こわかった…っ」
和仁「もう大丈夫だ…」


○数日後
「指定暴力団梅津組解体」という新聞見出しやネットニュース。

ジェシカモノローグ「その後、桜花組は本格的に梅津組を潰し、解体となった」

 留置所に入った悟のカット。

ジェシカモノローグ「悟くんを始めとする梅津組の幹部は全員逮捕された。何故かはわからないけど、桜花組は一切関わっていないことになっていた」


○庭に出る部屋(昼)
 庭の花を見ながら休んでいるジェシカ。

ジェシカモノローグ「私はあの直後は精神的に不安定になったけど、和仁さんがずっと傍にいて支えてくれた。
怖い思いをしたこともだけど、それ以上に友達だと思っていた悟くんに裏切られたことがショックだった」

 手元にある悟にもらったサボテンを見つめるジェシカ。

ジェシカ「……」
和仁「そのサボテン、捨てないのか?」
ジェシカ「和仁さん」

 和仁はジェシカの隣に座る。

ジェシカ「捨てようと思ったけど、この子に罪はなく一生懸命生きてるだけなのにって思うと…捨てられなくて」
和仁「植物も生き物だもんな」
ジェシカ「あ、でも和仁さんは嫌ですよね…捨てます」
和仁「君が捨てたくないなら捨てなくていい。ただ寝室には置きたくないな」
ジェシカ「じゃあ私の部屋に置きますね」※ふふっと笑う

 ジェシカを抱きしめる和仁。

和仁「本当は君を極道(こっち)の世界から離すべきなんだと思う。それでも君を離したくない」
ジェシカ「(和仁さん…)」
和仁「離したいけど離してやれない」
ジェシカ「離さないで…っ」

 ぎゅうっと抱きしめ返すジェシカ。

ジェシカ「私も和仁さんと離れたくない」
和仁「ジェシカ…何があっても俺が君を守り抜く。だから俺の傍にいてくれないか」
ジェシカ「はい…」

 見つめ合い、キスを交わす二人。

和仁「ジェシカ、旅行に行かないか?」
ジェシカ「旅行?」
和仁「まあ新婚旅行だな…温泉にでも入ってゆっくりしないか」
ジェシカ「! 行きたいです!」※パアッと華やぐ笑顔
和仁「二泊三日でどうだ?」
ジェシカ「そんなに休めるんですか?」
和仁「たまにはいいだろ」
ジェシカ「嬉しいです…」

 こてん、と和仁に頭を寄せるジェシカ。

和仁「…そこで君に話したいことがある」
ジェシカ「!」
和仁「聞いてくれるか?」
ジェシカ「もちろんです」
和仁「ありがとう」

ジェシカモノローグ「和仁さんに何があっても、受け止める。あなたを愛しているから――」


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