結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
「じゃあいつも、こうやって誰もいない時にひとりでストレス発散してるの? さっき、いろいろ嘆いていたから」
【ストレス発散……というわけではないが。そもそも、私の声は普通の人間には聞こえないんだ。今も、相手がエルザでなければただの獣の鳴き声と同等に聞こえているだろう】
「えっ! 私、普通じゃないってこと!?」
 ループなんて超現象を八度も経験している時点で、普通ではない自覚がある。だけども、それがリックの声が聞こえる理由に直結しているとは考えにくい。
【精霊や精獣の声を聞くことができるのは――神の庭に入ったことのある者のみ。エルザ、身に覚えはあるな?】
 すべてを見透かすようなリックの眼差しに、私はごくりと喉を鳴らした。リックは私が幼少期、神の庭に通っていたことをきっと知っている。
「ええ。もう何年も前だけど……」
【それが私の声が聞こえる理由だ。ついでに、私がお前の名前を知っている理由にも繋がる。当時はまだ、私は神の庭で暮らしていたからな】
 へぇ~と相槌を打ちながら、私はリックの話を真面目に聞いていた。それからどういう経緯でノア様のペットになったんだろう。やっぱり気になる……。
「ん? それならノア様や国王にもリックの声は聞こえるってこと? 神の庭の管理をしているのは王家でしょう?」
【さっきから質問ばかりだな。まぁ、仕方ないが。その通り。あいつらには私の声が聞こえてしまう。だからこれもわけあって、ノアや国王の前では人間言葉で話さないようにしているんだ。あいつらは私をペットだと思い込んでいるからな】
「ふぅん……ねぇリック。なにか悪だくみをしているわけじゃあないわよね?」
 なぜそうまでしてノア様のそばにいるのかが気になって、半分冗談、半分本気で聞いてみる。
【なっ……! するものか!私は加護を与えるべき人間に危害を加えることなどない! それを言うならむしろ――】
リックは狼狽えたような反応をし、大きく口を開いて鋭い牙を見せつけてきた。しかし、途中ではっとした顔をして口を閉ざす。
【い、いや。まぁいい。とにかく、そういうことだ。ほかのやつらには私のことは内緒にしてくれ】
 ごにょごにょとバツの悪そうな態度で話すリックを見て、私はどこか怪しさを感じた。リックったら、いったいなにを隠しているのかしら。
「わかったわ。その代わり、私のお願いを聞いてくれる?」
 両手を合わせてお願いすると、リックが眉をひそめる。
【取引を持ち掛けてくるとは……度胸のある女だな】
「えへへ。これでも人生経験が豊富なもので」
【まだ十八年しか生きていないくせによく言うものだ】
「その十八歳を何度も経験しているの」
【……意味がわからない.で、お願いっていうのは?】
 それはもちろん――。
「リックのこのもふもふを堪能させてほしいの!」
 リックにとっては予想外の願いだったのか、拍子抜けした顔を見せた。
【もふもふ?】
「そう。その全身に纏うもふもふの白い毛を撫でさせて!」
【な、撫でるのか? 私の身体を……】
 私の言葉に、リックはあまり気乗りしていないようだ。
 動物……特にもふもふした動物は、みんな撫でられるのが好きだと思っていたので、その反応は私にとっても意外なものだった。
【あ! その前に、私の質問に答えろ。エルザ】
 取引にさらに取引を上乗せしてくるとは。べつに、なんでも答えるけれど。
【お前、ノアと結婚したんだよな?】
「ええ。昨日結婚の儀を済ませたわ」
【結婚という一大イベントを終えた今、幸せではないのか?】
「……え? 普通に幸せではあるけど……」
  私の返答を聞いて、リックはひとりで【じゃあなんでだ……】と悩んでいる。
「答えたから、そろそろ撫でさせてもらうわね。リック」
 ずっとお預けされて、私も我慢の限界がきていた。
 どこかしゅんとした様子のリックに手を伸ばすと、まずは慰めるように優しく、ゆっくりと撫でる。そうすることで、私も毛の感触を堪能できるのだ。
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