結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
「……ノア様」
「家族のところへ行く許可は出したが、こいつは誰だ?」
 振り返ろうとした首が、ノア様から発せられる低音を聞いて前へと戻る。
「君の弟にしてはデカすぎるような気がするんだが……」
 アルノーでないことは、見たらわかっているはずなのに。敢えてはっきり言わないのは、私の口から言わせたいためか。この男とどういう関係なのかと。
「彼に誤ってぶつかってしまい、心配していただいたので少しお話をしていただけです」
 真実と嘘を織り交ぜ、いちばん穏便に済みそうな返事をした。ユベールのほうからぶつかったとなると、仮にも王太子妃のため、ノア様が変な因縁をつける可能性も考えられたため、ここは私からにしておく。ユベールはそんな私の意図を汲み取ってか、瞳だけで私に感謝を伝えているように見えた。
 ノア様はしばらくなにも言わず、だが私を離そうとはしない。ノア様に後ろから抱擁される私と、そんな私に向き合うユベール。そんなよくわからない光景を見て勝手にギャラリーたちが修羅場かなにかと勝手に盛り上がり出したところで、ノア様が急に私の肩に額を擦り寄せてきた。
「エルザ……なんだか俺、具合が悪くなったようだ。人込みに酔ったのかもしれない」
 これまで散々こういった規模のパーティーを主催したり参加したりしておいて、未だに慣れないことがあるの!?
 驚きつつも、私はノア様の弱弱しい声を聞いて放っておくことができず、とりあえずノア様を会場から遠ざけることにする。
「大広間でパーティーを開くと、いつも疲れてしまうんだ。悪いが、外の部屋で寝かせてくれないか」
「わかりました! あ、ベティ、ちょうどいいところに!」
 私が大広間の出口でおろおろしていると、いいタイミングでベティが通りかかる。
「ノア様が具合を悪くしたみたいで、休める部屋に行きたいみたいなんだけど、場所わかる?」
「ああ。パーティーでノア様がつらくなった時は、いつもここを出て右に真っすぐ、ふたつめの部屋。そこで休んでるわ。しばらくすると戻るから、付き添ってあげて」
「ありがとう! ベティ!」
 さすが専属をしていただけはある。……ん? そういえば、ノア様っていつもベティと定期的に大広間から出て行ってたわよね。その時も、いつもこの部屋で休んでたのかしら。ついでにお母様に渡すワインの件もベティに頼み、私は大広間を出た。
 教えてもらった部屋は、ノア様の自室とはまた別のプライベートルームのようだ。リックもいなければ、部屋もそんなに広くはない。とはいっても、普通よりは広いしベッドもダブルサイズはある。
「ノア様、ここで横になってください」
 ひとつの皺もないシーツが敷かれたベッドにノア様を寝かせようとすると、俯いていたノア様がやっと顔を上げた。
「……ノア様」
「なんだ?」
「ものすごく顔色がいいですけど」
「そうか? ああ、なんだか具合がよくなってきたな」
 ……仮病だったのか。
 怪しいとは思ったが、確信が持てなかった。ベティは絶対気づいていたはずなのに、わざとここへ向かわせたのだろう。思い返すと、部屋を教えてくれている時の彼女はにやにやとしていた。その時点で気づくべきだったと後悔する。
 ノア様はベッドに寝ることはせず、ただ私の隣に腰掛けている。しかしその表情は、いつもより元気がなさそうにも感じる。
「ここに君と来るの、変な感じだ」
「ノア様って、この前もパーティー中一時退席していましたよね。いつもはベティと来ていたんですか?
「……よく見てるな」
 感心したように言っているが、ノア様はいるだけで目立つので、ほとんどの人が見ていたと思う。見ていたからこそ、ベティと密会しているとかあらぬ噂を立てられたのだ。
「そうだ。俺はいつもべティとここで――」
 言いかけた最中、ノア様の顔が急に赤面していく。どうしたのだろう……? ま、まさか、このベッドでベティと……!? 恋仲ではなくとも、そういう大人の関係ってこと!? なんだか生々しい……なんて考えていると、ノア様が観念したように口を開く。待って、わざわざ言わなくたって……!
「……恋の話を、していた」
「……こい?」
 明日からどんな目でノア様とベティを見たらいいのと思った矢先、頭で思い描いていたのとはまったく違う話題が出て唖然とする。こいって、恋よね? それとも内容の濃い話的なことかしら?
「ああ。ベティはいつも俺の相談に乗ってくれて……この前のパーティーでは、どうやって君に話しかけるべきか、ここで話していた」
「私の話、ですか?」
「当たり前だ。恋の話といえば、君が話題の中心になるだろう。俺は君に恋をしていた――いや、今もしているが」
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