新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜
「泣くな。 もう、 終わったんだから」
「でも……」
「でも?」
ミサさんの気持ちを考えると、 何だかとても素直に終わらせられない自分がいる。 高橋さんとミサさんとの間に出来た、 子供の生命力を信じていない訳ではない。 しかし……何だか、 すべてが辛かった。 どう説明していいのかわからず、 ただ首を横に振った。
「俺は、 お前だけを見ているから」
その言葉に、 余滴を追い越すように新たな涙滴が頬を伝う。
「また泣いて……」
「うっ、 うっ……。 だって、 高橋さん……」
そんな私を、 何も言わずに高橋さんが両手で包むように右手を握ってくれる。 きっと、 私の考えていることなど、 全てお見通しなんだと思う。
高橋さんに触れたくて、 思わず左手を伸ばして高橋さんの左手にそっと触れた。
「だぁかぁらぁ、 早く元気になれ。 出来たら、 ゴールデンウィークまでにな?」
「ゴールデンウィークまでに……ですか?」
いらないゴールデンウィークと高橋さんがいつも言っているぐらい、 その前後は忙しい。 だからかな?
「そうだ。 それまでにお前が元気になって退院出来たら、 静養に行こう」
エッ……。
そう言いながら、 高橋さんは布団を掛け直してくれた。
「でも、 その頃はお忙しいんじゃないですか?」
高橋さんは、 仕事が忙しい真っ直中のはずなのに……。
「フッ……。 お前、 俺にゴールデンウィークも働かせる気かよ」
「あっ。 あの、 いえ……そ、 そんな……。 でも、 静養って何処に行くんですか?」
「ん? ひぃみぃつぅ」
そう言うと、 高橋さんは悪戯っぽく笑った。
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