新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜
「はい。 どうぞ」
すると、 代わりに明良さんが返事をしてくれた。
スッと引きドアが開いて、 ドアの向こうに男の人が立っていた。
誰?
慌てて視線を高橋さんに移すと、 高橋さんも明良さんの顔を見ていた。
そんな明良さんは無言のまま高橋さんの視線をかわし、 私の右手首をそっと掴んで脈をとっている。
「貴方……」
ミサさんが、 驚いたような声をあげた。
ミサさんのご主人?
ああ。
この状態……とても息が詰まりそうだ。
ミサさんは、 大丈夫なんだろうか?
そんな人じゃなかったって……。
大好きな人に言われて、 人を信じる事の出来る人間だったって。 だったという過去形で言われるほど、 今を否定されているようで哀しい事はないと思う。
「此処に居ると、 看護師さんに聞いてね。 出来たら来て欲しいと、 伝言があったから」
伝言?
「伝言?」
ミサさんは、 怪訝そうな顔をして高橋さんを見たが、 高橋さんはそんなミサさんの表情に臆することなく普通に視線を交わしていた。
高橋さんが呼んだの?
すると、 私の頭の上で声がした。
「お呼び立てして、 申し訳ありません。 僕が、 お知らせしたんですよ。 やはり、 ドナー患者と直接レシピエントのご家族が会うと言うからには、 ご主人様にも同席して頂いた方が、 よろしいかと思いました。 まして、 随分意見の食い違いから誤解も生じてらっしゃるようでしたし、 病院側と致しましても、 混乱は避けたいものですから」
うっ。
明良さんの物凄く大胆な発言に、 ドキドキしてしまった。
そう……明良さんが放った言葉の裏には、 幾つもの絡み合った言葉が成す深い意味が存在していた。
聞いていてハラハラする。
「誤解?」
ミサさんの御主人はミサさんの隣に立つと、 顔を覗き込んだ。
「僕は、 ドナーの彼の友人ですが、 今は病院側の人間という見地から敢えて申し上げますと……誓約書の内容にない事を、 奥様はドナー側に要望と言いますか、 要求されています。 そうだとすると、 とても先行き不安材料が残りまして……やはり誓約書には従って頂きませんと……誓約書の意味がありません」
明良さん……。
明良さんの口調は穏やかだったが、 ひとつ、 ひとつの語彙は厳しいものだった。
「ミサ! どういう事だ? もう、 その話は終わったんじゃなかったのか? それに、 また何でこの方の病室に?」
ミサさんの御主人は私を一瞬見てから、 ミサさんに問いただした。
「それは……」
すると、 代わりに明良さんが返事をしてくれた。
スッと引きドアが開いて、 ドアの向こうに男の人が立っていた。
誰?
慌てて視線を高橋さんに移すと、 高橋さんも明良さんの顔を見ていた。
そんな明良さんは無言のまま高橋さんの視線をかわし、 私の右手首をそっと掴んで脈をとっている。
「貴方……」
ミサさんが、 驚いたような声をあげた。
ミサさんのご主人?
ああ。
この状態……とても息が詰まりそうだ。
ミサさんは、 大丈夫なんだろうか?
そんな人じゃなかったって……。
大好きな人に言われて、 人を信じる事の出来る人間だったって。 だったという過去形で言われるほど、 今を否定されているようで哀しい事はないと思う。
「此処に居ると、 看護師さんに聞いてね。 出来たら来て欲しいと、 伝言があったから」
伝言?
「伝言?」
ミサさんは、 怪訝そうな顔をして高橋さんを見たが、 高橋さんはそんなミサさんの表情に臆することなく普通に視線を交わしていた。
高橋さんが呼んだの?
すると、 私の頭の上で声がした。
「お呼び立てして、 申し訳ありません。 僕が、 お知らせしたんですよ。 やはり、 ドナー患者と直接レシピエントのご家族が会うと言うからには、 ご主人様にも同席して頂いた方が、 よろしいかと思いました。 まして、 随分意見の食い違いから誤解も生じてらっしゃるようでしたし、 病院側と致しましても、 混乱は避けたいものですから」
うっ。
明良さんの物凄く大胆な発言に、 ドキドキしてしまった。
そう……明良さんが放った言葉の裏には、 幾つもの絡み合った言葉が成す深い意味が存在していた。
聞いていてハラハラする。
「誤解?」
ミサさんの御主人はミサさんの隣に立つと、 顔を覗き込んだ。
「僕は、 ドナーの彼の友人ですが、 今は病院側の人間という見地から敢えて申し上げますと……誓約書の内容にない事を、 奥様はドナー側に要望と言いますか、 要求されています。 そうだとすると、 とても先行き不安材料が残りまして……やはり誓約書には従って頂きませんと……誓約書の意味がありません」
明良さん……。
明良さんの口調は穏やかだったが、 ひとつ、 ひとつの語彙は厳しいものだった。
「ミサ! どういう事だ? もう、 その話は終わったんじゃなかったのか? それに、 また何でこの方の病室に?」
ミサさんの御主人は私を一瞬見てから、 ミサさんに問いただした。
「それは……」