新そよ風に乗って ⑧ 〜慕情〜
「ああ。 悪い」
「いえ……」
書類を拾い集めて、 ファイルに綴じ直す。
「高橋さん。 3番に、 総務からお電話です」
中原さんが、 高橋さんにそう言った。
「あと、 やっておきますから。 電話に、 出られてください」
「悪いな。 頼む」
「いいえ」
そう言って、 高橋さんは電話に出た。
「お電話代わりました。 高橋です。 はい……」
何でかな?
この時、 ふと高橋さんの声に元気がないような気がした。 書類をあんな風に、 ドサッと音がするほどの置き方をしたのも髙橋さんらしくないし……。
気のせいかな? 先週から本当に忙しそうだし、 疲れているのかもしれない。
髙橋さん。 大丈夫かな?
決算報告会も終わって、 ホッとしたのも束の間。 総会の準備に、 取り掛からなければならない。 高橋さんは、 分刻みの打ち合わせや会議で、 毎日殆ど席に居ることがなかった。
そんな高橋さんを少しでもフォローしたくて、 中原さんも私もそれなりに仕事をこなしてはいたが、 どうしても資格的な事が絡んでくると高橋さん本人でないと駄目な事も多くて、 中原さんも、 【 早く資格が欲しい! 】 と、 ぼやいていた。
そんな6月に入った、 週末の金曜日。 少し遅くなって、 中原さんはデートにすっ飛んで帰り、 高橋さんと一緒に事務所を出た。
IDカードをスリットさせ、 エレベーターに乗っていると、 降りる直前、 高橋さんに呼び止められた。
「送っていくぞ。 帰りに、 食事でもして行くか?」
エッ……。
内心、 飛び上がるほど嬉しかった。 でも、 最近の髙橋さんの忙殺ぶりを見ていたので、 とても素直に誘いを受け入れることが出来なかった。
「ありがとうございます。 でも、 今日はやめておきます」
「……」
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