奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
* * *
翌日、目を覚まし、未だに混乱は消えていないが、それでも、昨日の娘との会話を思い出し、大分、頭が冷めたのか、朝食後、リチャードソンと『セシル』 は、二人だけで長い会話をした。
その会話の中で、どうやって『セシル』 の婚約話を解消できるかという話題で、リチャードソンが無理だろう……と懸念していた理由を、『セシル』 もそこで理解したのだった。
どうやら、この国――王政を強いている国家なら、大抵は、貴族であるのなら、結婚は国王陛下の承認がなければできないらしい。
親同士や親族が決めた婚約話でも、国王陛下に謁見できる場で、婚約の報告の義務がある。
それで、結婚する時は、国王陛下の“承認”と、それにおいて“祝福”が授けられる、というのだ。
アホ臭い習慣である。
そのせいで、狡賢いホルメン侯爵が、すでに、国王陛下から婚約の承認を得ていて、そのサインされた書類があったせいで、父のリチャードソンだって、婚約話を断ることができなくなってしまったのだ。
侯爵家の立場を悪利用し、国王陛下からも勝手に承認を得ているなんて、ヘルバート伯爵家の利益目当てがバレバレではないか。
それなのに、国王陛下は何の疑問も浮かべず、おまけに、ヘルバート伯爵の意向も確認せず、こんな意味のない婚約話を承認したのだろうか。
リチャードソンの話からしても、ヘルバート伯爵家は、特別、王家に目をかけられているとか、贔屓されている家柄でもない。
反対に、目をつけられているような対抗勢力とも思われていない。
ヘルバート伯爵家は高位貴族に入るが、それなら、他にもまだ同じような貴族はたくさんいる、と言うのだ。
だったら、なぜ、こんな突然の婚約話を疑わず、勝手に婚約話など承認したのか。
まさか、貴族同士ならどうでもいいか、なんて適当な返事で、この婚約話を認めたのではあるまいに。
国王陛下が絡んでいるとなると、少々、婚約解消も難しくなってくる。
ただ、『セシル』 のおぼろげな記憶を辿ると、婚約破棄はホルメン侯爵家からで、ヘルバート伯爵家からではない。ホルメン侯爵家のあのバカ息子のせいで、ヘルバート伯爵家の没落の道がでてきしまったような、そんな会話の一節だった。
それなら、勝手に婚約破棄してくるホルメン侯爵家のあのバカ息子は放っておいても、左程、最終的な結果には影響を及ぼさない可能性が高くなってくる。
むしろ、その場で、ホルメン侯爵家をぎゃふんと言わせてやれば、ヘルバート伯爵家の没落も逃れられるし、あのクソガキを徹底的に叩き潰すことが可能になってきそうだ。
当座は、その線で事を進めることにしよう。
それから、次の三ヵ月ほどは、『セシル』 は王国のこと、政治のこと、地理や領地の情勢、状況など、多種多様なことを学ぶ為に、毎日が勉強のし通しだった。
『セシル』 は、基礎的な読み書きはできていた。家庭教師で字を習い始めていたようだから、読み書き程度はできても、専門書など読めるはずもない。
それで、足りない知識を埋める為に、猛勉強が始まったのだ。
その為に、何人もの家庭教師を選んでもらい、時間が空いている時は、リチャードソンからも、色々なことを教えてもらっていた。
『セシル』 の為に、家庭教師の人員を集めることだって、かなりの出費がかさんでしまったが、リチャードソンは、その程度のことなど気にすることはないよ、と娘を安心させてくれたのか、それとも、本当に気にするほどの問題でもなかったのか。
今は、リチャードソンが困窮している様子も見られなかった為、セシルは父の好意に甘え、できる限りの人材を集めてもらっていた。
「おねーさまっ! みて、みてっ。まちがみえてきたよっ」
馬車の窓から外を眺めていたシリルが、大はしゃぎで窓にへばりついている。
「そう。それなら、少し休憩ができるのね。良かったわ」
馬車の中に閉じ込められて……すでに、数日。
前世(なのか現世) の記憶が蘇ってから、数か月。毎日、必死の勉強で時間が追われていた『セシル』 は、自分が身動きできない間、父にはホルメン侯爵家の内情を探れるような人材を探してもらっていた。
ノーウッド王国にはギルド商会というものがあるらしく、そこでは、お金を支払えば、傭兵が仕事を引き受けてくれるという商会があるのだそうだ。
異世界――のような話では、“ギルド商会”などと聞くと、つい、冒険者などの集まりを想像してしまうが、この世界のギルド商会は、傭兵の仕事斡旋場となっているらしかったのだ。
そこで、リチャードソンは、ギルド商会内でも信頼の置ける傭兵を雇い、ホルメン侯爵家、侯爵領などの調査を依頼したと、『セシル』 に話してくれた。
自分の勉強と、ホルメン侯爵家のことは、時間がかかることだから、長い目で見て行かなければならないと初めから予想していたので、これからは、状況次第で、その都度、必要な決定事項を決めて行くつもりだ。
そして、次に『セシル』 に必要な課題は、『セシル』 自身が怪しまれずに、自由に動ける場所が必要だ、ということ。
傭兵を雇い、情報や報告を待っているだけの手段もある。
だが、それだけでは、実際に何が必要なのか、『セシル』 も判断し難くなってしまう。
いずれ、『セシル』 自身でも動けるように、動き回っても見つからないように、隠れ蓑となる場所が必要なのだ。
その話をした『セシル』 に、リチャードソンはもちろんのこと、あまり賛成しかねない顔を見せた。
それでも、一応、セシルの希望に当てはまるような場所に行ってみようか、ということになり、家族揃って、今は旅の真っ最中。
なんでも、ヘルバート伯爵家には、今、住んでいる領地の他に、南方に小さな領地があるそうなのだ。
コトレア領、と言う。
かなり南方に下らなければならなくて、王都からでも馬車で5~6日はかかるそうな。
そうなると、ヘルバート伯爵家から王都まで2~3日の旅路。それから、更に、5~6日の、長距離移動となる。
翌日、目を覚まし、未だに混乱は消えていないが、それでも、昨日の娘との会話を思い出し、大分、頭が冷めたのか、朝食後、リチャードソンと『セシル』 は、二人だけで長い会話をした。
その会話の中で、どうやって『セシル』 の婚約話を解消できるかという話題で、リチャードソンが無理だろう……と懸念していた理由を、『セシル』 もそこで理解したのだった。
どうやら、この国――王政を強いている国家なら、大抵は、貴族であるのなら、結婚は国王陛下の承認がなければできないらしい。
親同士や親族が決めた婚約話でも、国王陛下に謁見できる場で、婚約の報告の義務がある。
それで、結婚する時は、国王陛下の“承認”と、それにおいて“祝福”が授けられる、というのだ。
アホ臭い習慣である。
そのせいで、狡賢いホルメン侯爵が、すでに、国王陛下から婚約の承認を得ていて、そのサインされた書類があったせいで、父のリチャードソンだって、婚約話を断ることができなくなってしまったのだ。
侯爵家の立場を悪利用し、国王陛下からも勝手に承認を得ているなんて、ヘルバート伯爵家の利益目当てがバレバレではないか。
それなのに、国王陛下は何の疑問も浮かべず、おまけに、ヘルバート伯爵の意向も確認せず、こんな意味のない婚約話を承認したのだろうか。
リチャードソンの話からしても、ヘルバート伯爵家は、特別、王家に目をかけられているとか、贔屓されている家柄でもない。
反対に、目をつけられているような対抗勢力とも思われていない。
ヘルバート伯爵家は高位貴族に入るが、それなら、他にもまだ同じような貴族はたくさんいる、と言うのだ。
だったら、なぜ、こんな突然の婚約話を疑わず、勝手に婚約話など承認したのか。
まさか、貴族同士ならどうでもいいか、なんて適当な返事で、この婚約話を認めたのではあるまいに。
国王陛下が絡んでいるとなると、少々、婚約解消も難しくなってくる。
ただ、『セシル』 のおぼろげな記憶を辿ると、婚約破棄はホルメン侯爵家からで、ヘルバート伯爵家からではない。ホルメン侯爵家のあのバカ息子のせいで、ヘルバート伯爵家の没落の道がでてきしまったような、そんな会話の一節だった。
それなら、勝手に婚約破棄してくるホルメン侯爵家のあのバカ息子は放っておいても、左程、最終的な結果には影響を及ぼさない可能性が高くなってくる。
むしろ、その場で、ホルメン侯爵家をぎゃふんと言わせてやれば、ヘルバート伯爵家の没落も逃れられるし、あのクソガキを徹底的に叩き潰すことが可能になってきそうだ。
当座は、その線で事を進めることにしよう。
それから、次の三ヵ月ほどは、『セシル』 は王国のこと、政治のこと、地理や領地の情勢、状況など、多種多様なことを学ぶ為に、毎日が勉強のし通しだった。
『セシル』 は、基礎的な読み書きはできていた。家庭教師で字を習い始めていたようだから、読み書き程度はできても、専門書など読めるはずもない。
それで、足りない知識を埋める為に、猛勉強が始まったのだ。
その為に、何人もの家庭教師を選んでもらい、時間が空いている時は、リチャードソンからも、色々なことを教えてもらっていた。
『セシル』 の為に、家庭教師の人員を集めることだって、かなりの出費がかさんでしまったが、リチャードソンは、その程度のことなど気にすることはないよ、と娘を安心させてくれたのか、それとも、本当に気にするほどの問題でもなかったのか。
今は、リチャードソンが困窮している様子も見られなかった為、セシルは父の好意に甘え、できる限りの人材を集めてもらっていた。
「おねーさまっ! みて、みてっ。まちがみえてきたよっ」
馬車の窓から外を眺めていたシリルが、大はしゃぎで窓にへばりついている。
「そう。それなら、少し休憩ができるのね。良かったわ」
馬車の中に閉じ込められて……すでに、数日。
前世(なのか現世) の記憶が蘇ってから、数か月。毎日、必死の勉強で時間が追われていた『セシル』 は、自分が身動きできない間、父にはホルメン侯爵家の内情を探れるような人材を探してもらっていた。
ノーウッド王国にはギルド商会というものがあるらしく、そこでは、お金を支払えば、傭兵が仕事を引き受けてくれるという商会があるのだそうだ。
異世界――のような話では、“ギルド商会”などと聞くと、つい、冒険者などの集まりを想像してしまうが、この世界のギルド商会は、傭兵の仕事斡旋場となっているらしかったのだ。
そこで、リチャードソンは、ギルド商会内でも信頼の置ける傭兵を雇い、ホルメン侯爵家、侯爵領などの調査を依頼したと、『セシル』 に話してくれた。
自分の勉強と、ホルメン侯爵家のことは、時間がかかることだから、長い目で見て行かなければならないと初めから予想していたので、これからは、状況次第で、その都度、必要な決定事項を決めて行くつもりだ。
そして、次に『セシル』 に必要な課題は、『セシル』 自身が怪しまれずに、自由に動ける場所が必要だ、ということ。
傭兵を雇い、情報や報告を待っているだけの手段もある。
だが、それだけでは、実際に何が必要なのか、『セシル』 も判断し難くなってしまう。
いずれ、『セシル』 自身でも動けるように、動き回っても見つからないように、隠れ蓑となる場所が必要なのだ。
その話をした『セシル』 に、リチャードソンはもちろんのこと、あまり賛成しかねない顔を見せた。
それでも、一応、セシルの希望に当てはまるような場所に行ってみようか、ということになり、家族揃って、今は旅の真っ最中。
なんでも、ヘルバート伯爵家には、今、住んでいる領地の他に、南方に小さな領地があるそうなのだ。
コトレア領、と言う。
かなり南方に下らなければならなくて、王都からでも馬車で5~6日はかかるそうな。
そうなると、ヘルバート伯爵家から王都まで2~3日の旅路。それから、更に、5~6日の、長距離移動となる。