マフィアのお兄ちゃん、探してます

月代真生さん

「着いた!ここがアールアールのDアジト!」
うわぁ……!ぼっろ……!
さすがにダイレクトすぎるので口に出すことは控える。
「これでも完全に廃ビルだよね……?入って大丈夫なの?」
俺が聞くと、湊は小首を傾げて言う。
「うーん……わかんねぇけど大丈夫じゃね?」
嘘でしょ……管理どうなってんねん。
廃ビルをアールアールが買い取っているならまだわかるけどさ。
心配ごとはまだ続く。
「ねぇこれさ、壊れん?」
所々ひび割れた壁に、散らばったガラス。コンクリートの床には木の破片やらほこりやらが散乱していて。
ほんとに1言で言うなら、カオス。
元々はなんかの会社だったらしく、デスクトップがたくさん並んで置かれていた。
かろうじて電気はつくけれど、敵にバレないように小さな豆電球だけしか許されていないらしい。
「あ、はく。ちょっとこっからは目瞑ってもらって」
「え?」
「アールアールに加入したらパスワード教えて貰えるんだ」
俺はまだ仮だからダメなのか。
大人しく頷くと、湊は何やらヘッドバンドみたいなのを取り出した。
「はいこれ。目のとこにあててな。悪いけど、これが決まりなんだわ」
「りょーかい。こんぐらいお易い御用」
バンドを受け取り、目の位置に合わせてバンドをつける。
湊のキーパッドを叩く音が聞こえ、ガシャンという音が響く。
「まだ取らないでな」
「はーい」
何してんだろ……めっちゃ気になる……。
目を開けたい気持ちにじっと耐えていると、「もういいよ」と言われ、バンドを外される。
「うぉわぁぁあ!」
そこには、さっきまでとは月とすっぽんの光景が広がっていた。
暖かみのある薄いねずみ色に塗られた床。真っ白な天井に、蛍光灯。
木でできたキッチン……は何でだろ?
あとおっきな机。これも木製。
たくさんの人で賑わっている。
そのうちの1人が、湊に気づいて。
「あ、湊さん!お疲れ様っす!」
「「「お疲れ様です!」」」
「あぁ、お疲れ」
湊はなんでもないかのように軽くあしらって流す。
「……え?」
俺は固まる。そして、湊に聞く。
「み、湊……?」
「ん?」
「さ、さっきの人達ってさぁ、何で湊に挨拶したの?つか絶対向こうの方が年上だよね?何で湊に敬語使ってんの?」
俺が湊に質問攻めしたとき、1人の男性がこっちに近づいてきた。
「それは俺が説明致しましょう」
「おっ、頼もし。じゃあアジトの案内もついでに頼んでもいいか?」
「おまかせを。お坊ちゃまのご学友様は、私が命をかけてお守り致します」
男の人が恭しくお辞儀をする。
湊は安心したように笑って、俺に向き直る。
「はく、こいつは俺の部下兼アシスタントの月代真生(つきしろまお)。頼りになるし普通に強いから安心してな」
「初めまして、私は先程湊様からご紹介頂きました、月代真生と申します。どうぞよろしくお願い致します」
「おっ、俺は来栖白露です!…えっと、一応空手黒帯です」
最後の情報は要らなかった気がする……。
自己紹介のときに毎回言っていたから癖になっちゃったや。
「本当ですか。それはとてもお素晴らしいことで」
他もなんか習ってたことあるだろ、と湊のツッコミ。
えぇ、他人にあんま言いたくないんだけど……。
「あとは、柔道が紅白帯で剣道3段と、護身術も少しだけやってました」
「何だそれ、俺初耳なんだけど?」
不機嫌そうな湊の声。
「だって言ってないもん」
本当は誰にも言わないつもりだったのにさ……。
「凄……」
話を聞いていたらしい周りの人達が呟く。
「剣道2段って、俺よりも強いけど……」
「やべー、逸材来たよ……!」
「名前なんだっけ、誰か知ってる?」
「来栖白露様だよ!」
「うぉー、白露様!」
やべー……逃げ出したい……。超気まずい……泣きそ……。
「では白露様、行きましょう。まずはアジトの概ねをご紹介します」
「あ、はいっ」
感謝だ真生さん……!
俺は真生さんの少し後ろぐらいを歩いてついて行った。
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