君と二度目の恋に落ちたら

第5章 選択

前野くんの一言から私はすっかり忘れてしまっていた記憶を取り戻した。

「ゆりあ」

私の名前を呼び、目の前にいる父はいるはずのない人だった。ああ、これは全部夢だったんだとわかった。



夏休みの文化祭練習2日目の朝、私はいつも通りの時間に起きて前野くんと会えることを楽しみに思いながらのんびりと支度をしていた。

いつもと変わらない日常になるはずだったその日は、一本の電話で一変した。

電話に出た母は青ざめた顔をしていた。電話が終わり、「どうしたの？」と私が声を掛けるよりも前に母は悲痛な声でこう言った。

「お父さんが…！事故に遭って病院に運ばれたって…！」

私は信じられない言葉に呆然とした。母はそんな私に「急いで病院に向かうわよ」と言い、私の腕を掴んで引っぱった。私はそれでようやくハッとし、急いで病院に向かうために母と車に乗り込んだ。

病院にたどり着いた時、父は今処置を受けていると聞かされ、私たちは廊下の椅子に座ってただ時が過ぎるのを待っていた。

生きた心地がしなかった。

私たちはただただ父の無事を祈ることしかできなかった。だが、その祈りも虚しく、手術室から出てきた医師は「手を尽くしましたが…」と説明を受け、母は泣き崩れ、私はその場に立ち尽くした。

どうしてこんなことになってしまったのだろうか。父が何をしたというのだろうか。こんなに急に命を奪われていい人ではないはずではないか。

父の命を奪ったトラック運転手は過労による居眠り運転をしていたということを後に知らされた時、私はトラック運転手とその会社を恨んだ。そして、トラック運転手は重傷を負っていたが、命は助かったことも恨んだ。

どうして、何も悪いことをしていない父が死ななければいけなかったのか。私は理不尽な現実を恨んだ。
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