腹黒御曹司の一途な求婚

プロローグ

 眩しい朝日が窓から差し込む爽やかな朝――のはずだった。
 
 深い眠りの淵から意識が浮上して、まず感じたのは腰回りの独特な重怠さ。
 これだけで、いつもの朝とは違うことに気がつく。

 そして重い瞼を開けて……私は絶句した。

「……………………う、わぁ……」
 
 長い沈黙の果てに私の口から漏れ出たのは、おおよそ爽快とは言い難い呻き声。
 
 だって、仕方ない。
 というか叫び出さなかったことを褒めてほしい。
 
 目の前には、すやすやと安らかな寝息を立てて眠る絶世の美男子。
 
 チラッとその背後に目をやれば、無造作に脱ぎ捨てられた衣服が床に散らばっているのが見える。
 クイーンサイズのベッドのシーツはグシャグシャで、私たちは一糸纏わぬ姿でそこに寝転がっていた。
 
 この寝室で何が起きたのかは一目瞭然なわけで。
 思わずはあーっと大きなため息が漏れた。

 この状況に陥った原因を一言で言えば、酔った勢い、だ。それは隣で眠る彼――久高蒼士(くだかそうし)くんにとっても同じこと。

 中学生以来十三年ぶりの再会を果たしたのをきっかけに、彼と食事を共にしたのが昨夜。
 楽しい会話と美味しい食事で、ついお酒が進んでしまった。

 その結果、真っ赤になってふらつく久高くんを、私もほろ酔いになりながら自宅マンションまで送り届けたまではよかったのだけれど。

萌黄(もえぎ)……』

 私の名前を呼ぶ艶めいた声と、アルコールが混じった熱い吐息が鮮明に思い起こされる。
 あどけない彼の寝顔を見つめながら、私はそっと自分の唇に指を這わした。
 そこには初めて交わした濃厚すぎる口付けの感触が、まだ残っている。

 夢のようだった。
 彼はまるで本物の恋人のように私に扱ってくれて。

 いい年して経験がないことを嘲笑うこともせず、私を優しく導く手つきはまるで宝物に触れるように丁寧だった。
 
 酔いに任せて体を重ねてしまったけれど、私の胸に後悔があるわけではなかった。
 彼に初めてを捧げられて間違いなく幸せだった。それはそうなんだけど……。
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