腹黒御曹司の一途な求婚
「ううん、こっちは何も。来週大きな宴会があるから営業の方がバタついてるんだよね」
「そうなんですねぇ。結婚式、ってわけじゃないんですよね?」
「――あおうみ銀行の創業百二十周年を祝う記念パーティーが行われるんだよ。な、美濃?」

 そう言って、私と小芝ちゃんの背後から顔を覗かせたのは、先輩の松田さん。
 私と同じく、レストランサービス課のアシスタントマネージャーを務めている。年次は私の六つ上で、経験も豊富な頼れる先輩だ。
 ちなみに既に結婚していて、一児のパパでもある。今年二歳になった娘さんは、目に入れても痛くないらしい。

 松田さんは私を見て、物言いたげにニヤニヤと笑っている。
 ……今すぐ逃げ出したい。

「美濃も参加するんだよなー?どんな感じだったか報告よろしく」
「えっ?どういうことです?美濃さん、そんなすごいパーティーに行くんですか?なんで?」
「そりゃあ、あおうみの御曹司の婚約者だからだよ。小芝、知らなかった?」
「…………う、うえぇぇぇ?!!マ、マジですかぁ、美濃さん?!!」

 目を丸くした小芝ちゃんの黄色い絶叫に反応して、振り返ったフロアの面々が一斉に私を見た。
 好奇の眼差しが痛いくらいに私を突き刺してくる。
 けれど誰かが声を上げるでもなく、皆が皆、訳知り顔をして頷くと、すぐさま自分の仕事に戻っていった。

 その様子に、私は頭を抱えて悶絶したい気持ちでいっぱいだった。

(あぁぁぁ……もう、なんでこんなに広まってるのよぉ……)
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