腹黒御曹司の一途な求婚
 萌黄にいらぬ心配をかけたくなかったので言ってはいないが、あの女が職場に押しかけてきたのも一度ではない。もちろん全て無視している。

 萌黄を陥れるために、俺と萌黄の仲を引き裂こうという思惑ももちろんあっただろう。
 だが俺に近づくあの女の目は、明らかに男を狩る女豹の目をしていた。
 油断をしていれば俺まで狩られかねない。

 厄災が降りかかる前に、奴らを追いやるべく糾弾できる材料を探っていたのだが、予想以上にボロが出てきてくれて助かった。

(不倫にしても横領にしても、隠すのが下手すぎだ)

 どちらも証拠を見つけるのは容易かった。
 なにせ夫も住まう街で、堂々と不倫相手と逢引する迂闊っぷりである。
 
 横領に関しても同様だ。
 美濃貴子の不倫相手であった坪井は、うちの銀行(あおうみ)にある菊乃屋の口座から直接、自身の口座に金を振り込み、その全額を美濃貴子に送金していた。
 坪井と美濃貴子の口座も、あおうみのものだったことに加え、隠し口座の経由もしていなかった。
 そんなあからさまな状態では、金の流れを把握することなど造作もない。

 駿が菊乃屋の融資担当だったことも幸いした。
 彼とその上長に協力を仰ぎ、菊乃屋の経理担当にも秘密裏に話を聞き、横領の確たる証拠までも押さえていた。
 それを出すまでもなく自滅してくれたので、出番はなかったが。
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