腹黒御曹司の一途な求婚
 すると驚くべきことに、一瞬にして既読マークが付いて、なぜか電話がかかってきた。突然着信画面へと切り替わって私はギョッと目を見開く。

「えっ、なんで……ていうか早すぎじゃない……?」

 まるで待ち構えていたかのようなレスの早さにちょっとだけ引いた。いくらなんでも早すぎでは……。
 それでも無視するわけにはいかないので、ドキドキしながらスマートフォンを耳元に当てる。

「も、もしもし、美濃です……」
『久高です。ごめんね、急に電話して。今、大丈夫かな?』

 耳元で聞こえる心地よい低音に、私は頬を赤らめた。この、鼓膜に直接響く感じがとっても心臓に悪い。
 
「う、ううん。大丈夫だよ。あの、お洋服とかありがとう。気を遣わせちゃって、逆にごめんなさい」

 返事をする声も僅かに上擦ってしまった。どうか気が付かないでほしい。
 
『いや、迷惑をかけたのは俺の方だからね、気にせず貰ってほしい。今日は本当に申し訳なかった。あの後お店は問題なかった?腕は平気?』
「うん、特に影響もなかったよ。腕も大丈夫。心配してくれてありがとう。けど……久高くんこそ大丈夫だったの?その、婚約者の方と色々あったみたいだけど……お仕事の影響とか……」
 
 あのお嬢様は、婚約破棄を叩きつけた久高くんに対して「お父様に言いつけて取引をなくしてやる!」なんて叫んでいた。
 着替えて店の片付けをするだけの私より、そっちの方がよっぽど後処理が大変そうな気がする。
 ただ当の久高くんは、そんな存在はすっかり忘れてたとでもいいたげに、『ああ……』とどうでもよさそうな声を発していた。

『大丈夫。元々根回しもしていたし、何も問題ないよ。美濃さんこそ心配してくれてありがとう。そういう優しいところは昔と一緒で変わってないんだね』
「い、いや……そんな、優しいってわけじゃ……」

 いつの間にか久高くんの声にとろりとキャラメルを流し込んだような甘さが乗っていて、私はしどろもどろになった。
 昔も今もそんなに優しい性分じゃないのに。久高くんの中でどれほど私の記憶が美化されているんだろう……。
 
 頬がみるみるうちに熱くなって、多分今、顔全体が真っ赤になっている。これが電話でよかったと、私はそっと胸を撫で下ろした。
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