腹黒御曹司の一途な求婚

流れ流され

 アールデコの格調高い店内。
花を模したオレンジのシャンデリアに照らされ、店の中央に設置された大きな円形のカウンターに座った私は、少し緊張気味に目を伏せていた。

「もしかして、美濃さん緊張してる?」

 隣に腰掛けた久高くんが、強張る私の顔を覗き込むように見てくる。ちょっと揶揄い口調だ。
 
 今日の久高くんはウール仕立てのカジュアルなグレーのジャケットを羽織って、シャツと黒のパンツを合わせている。この間の隙のないスーツ姿もカッコよかったけれど、今日みたいなカジュアルな装いも素敵だ。

 対する私は三角のボウタイがついた綺麗めのワンピース。
 少しは釣り合って見えるといいな、なんて思いつつ、私は苦笑してその問いに頷いた。

「だってこういうところ、全然来ないから……」
「普段同じようなところで働いてるのに?」
「プライベートでは来ないし。あと、同業者だから余計に緊張するのもあるっていうか」

 喉を鳴らして笑う久高くんに、私は肩をすくめてみせる。

 今日、久高くんに連れてきてもらったのは、私が働くアスプロ東京の目と鼻の先に建つ、五十三階建の超高層複合ビル「ベリが丘ツインタワー」の四十九階にある鉄板料理店だ。
セレブ御用達とあって店内は高級感があり、落ち着いた雰囲気に包まれている。

 こういった敷居の高いレストランのサービススタッフというのは、かなりつぶさにお客様を観察しているものだ。
 身なりや所作、漏れ聞こえる会話の内容。
 それらに注意深く気を配ることで、お客様に最適なサービスを提供できる。
 
 それを知っているからこそ、私は彼らの視線を必要以上に意識してしまっていた。
まるでこれから面接でも始まるかのように背筋をピンと伸ばしていると、久高くんがクスクスと笑いを噛み殺した。
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