腹黒御曹司の一途な求婚
「気持ちは分からなくもないけど。とりあえず飲み物でも頼もうか。緊張が紛れるかも。美濃さん、お酒飲める?」
「うん、そんなに強くはないけど。久高くんは何にするの?」
「俺は……せっかくだからシャンパンでも頼もうかな」
「じゃあ、私もそれで」
 
 久高くんが片手をスマートに上げてホールスタッフを呼び寄せる。私の好みを聞いてくれた上で、私が好きな辛口のシャンパンを注文してくれた。
 
 シャンパンボトルを持ってきたのは別のスタッフ――恐らくソムリエだと思う――はラベルを私たちに向けると、シャンパンの銘柄と生産者を淀みなく説明して、まず私のグラスにシャンパンを注いでいく。その手つきは流麗で、このレストランが一流のサービスを提供する店であると私は肌で感じ取った。

 久高くんのグラスにもシャンパンを注ぎ終えると、ソムリエはスマートに礼をしてすぐにその場を立ち去った。
 
 グラスから立ち上る芳醇な香りが、ふわりと鼻腔を掠める。私の体を固くさせていた緊張もシュワシュワと泡に紛れて溶けていくようだった。
 にっこり微笑む久高くんと目が合って、私はまだ少し堅い手つきでグラスを手に取った。

「じゃあ、二人の再会に乾杯」

 なんて気取った台詞なんだろう。でも久高くんくらいかっこいいと、それすらも似合っていて。
 私ははにかみながら、グラスを掲げた。
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