腹黒御曹司の一途な求婚
 美濃の親戚は、なにかにつけてたびたび私の自宅である美濃本邸にやってきていた。二週に一回くらいは誰かしら訪れていた気がする。
 
 父はいつも喜んで親族を迎え入れていて、母へ彼らをもてなすように言っていた。
 どうして父が、母を虐める人たちを愛想よく受け入れているのか、私にはまるで理解ができなかった。
 
 剥き出しの悪意をぶつけられた母は、いつも表情を失くしてその場で佇んでいた。
 そんな母を見ているのが辛くて、『お母さんはお部屋に隠れてて』と懇願したことは数えきれない。
 
 でも母は『そういうわけにはいかないのよ。大人だから』と儚げに笑って言うだけで、父に請われるがまま親族の相手を務め続けていた。
 
 だから私は反発心を服従させて無理やり納得するようにした。
 母が心を押し殺して親族の前に出て行くのも、父が母を庇わないのも、全部大人だから仕方のないことだと、そう言い聞かせて。
 
 
 だが長年美濃の親戚から冷遇され続けた心労が祟ったのだろう。母は私が十歳になる年に病を発症して、あっけなくこの世を去った。
 
 私と父は悲しみに暮れ、母が死んでからというものの、家は常にお通夜状態だった。
 泣き暮れる私に、父は悄然としながらも『お母さんの分まで二人で頑張って生きよう』と私を慰め、励ましてくれた。
 身がバラバラに切り裂かれそうなほどの悲しみも、父と一緒なら乗り越えられると思った。
 
 そんな私の希望を打ち砕いたのは――他でもない父だった。
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