腹黒御曹司の一途な求婚
 信じ難くてしきりに瞬きを繰り返していると、久高くんが不意に目を伏せて、もの寂しげに微笑んだ。

「怖気付いてなかなか好きだって言い出せなくて。でも中等部の卒業式には絶対告白しようって決めてたんだ。それなのに夏休みが終わって登校したら、萌黄の席がなくなっててさ……。転校したって知らされた時、めちゃくちゃショックだったよ。それからずっと、萌黄のことが心の奥でわだかまってたんだと思う。だからまた会えて嬉しかった。しかも萌黄は昔と同じで、まっすぐで、心が綺麗で、俺が好きだった萌黄のままだった。そんなの、好きにならない方が無理だ。俺は萌黄を好きになる運命だったんだなって思ったよ」

 翳を払拭した柔らかい微笑みが久高くんの頬に浮かんだ。運命という言葉の響きがこそばゆくて、私はあちこちに目を彷徨わせる。

 彼から好きと言われても、私は心のどこかで冗談の類だろうと思っていた。かつての幼馴染という物珍しさから好意を囁いているんじゃないか、なんて軽く受け止めていたのだ。
 でも今、彼から向けられる恋情を猛烈に意識させられている。
 
 視界の端には白、橙、赤の燦然と輝く東京の夜景がゆっくりと流れていく。
 デッキに出た時は寒さに震えていたというのに、今は身体の芯が燃え盛っているかのように熱かった。

「――俺が好きって伝えるのは、萌黄にとって迷惑?」

 瞳に慈愛を湛えて、久高くんは私を一心に見つめてくる。胸がきゅうっと締め付けられるようだった。
 私は静かに首を横に振った。迷惑だなんて、そんなことあるはずがない。むしろ心は歓喜で震えている。

 けど――

 私はその先の言葉を紡げなかった。
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