花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—

第拾漆話 邂逅 —櫂李譚—

◇◇◇

白い光の粒が、目の前で音もなく舞う。
死後の世界だって言われたら、信じてしまうかもしれない。
それくらい心が空っぽだ。

穏やかな陽気の中で、三月が終わろうとしている。

僕の父と母は、この三月の初めに海外での航空機事故でこの世を去った。
祖父母は自分たちだって辛いだろうと思うのに、様々な手続きや、遺族のコメントを取ろうとする無神経なマスコミから未成年の僕を守ろうと日々奔走してくれていて、家にいないことも多い。
幸いあの門の中まではマスコミ連中は入って来られないから、家はとても静かだ。

僕の精神状態は春の陽気とは真逆だった。

突然両親を失ったショックで、ましてや遺体が見つからないという最悪の状況に、いっそ自分も死んでしまおうかと毎日そんなことばかり考えてしまう。このまま消えてしまえたら、と。

僕はフランス人の血を引く母の薦めもあり、フランスに住んで向こうの学校に通っていた。
日本へは長期の休みの際に帰って来てこの家で過ごす程度だった。
だけどそれももう終わりで、これからは祖父母とこの家で暮らし、日本で高校に通うということになった。

事故で全てが変わってしまった。

何もする気になれないし、本当に死んでしまったほうがマシだ。
そんなことを考えながら、縁側に座って庭の桜をながめる日々が続いている。

今年の桜は三月の下旬に満開を迎えていた。
父と母も好きだった桜の木。

フランスにも桜はあったけど、濃いピンクの八重桜で日本のソメイヨシノとは随分と趣が違う。
満開の桜が舞い散っていくのは美しくもあり儚くもあり、実に日本的だと思う。


「すいません! さくらください」

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