花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
突然、庭から声がした。

驚いて見ると幼い女の子が立っている。
肩くらいの長さの黒い髪で、子どもの年齢はよくわからないけど四〜五歳といったところだろうか。

「君、どこから入って来た? 勝手に入って来たらダメだよ」
子どもとはいえ、侵入者を黙って受け入れるわけにはいかない。
だいたい今は一人で感傷に浸っていたいんだ。

「ぴんぽん、とどかなかったの」

彼女は縁側に座ったままの私の方に駆け寄ってきた。
玄関のチャイムが鳴らせなかったのか。
この家は脇の狭い通路を通れば庭に入ってくることができる。

「さくら、ください」
「お父さんかお母さんはどこにいる?」
「おうちにいるよ」
僕はため息をついた。

この辺りの人間は資産家が多いわりに、万全のセキュリティを信頼して子どもを放っておく呑気な家も多い。
僕も幼少の頃は自由に動き回っていたことを思い出す。

「おばあちゃんが、このおうちのさくらがきれいだっていってたの」
この子のおばあさんはこの家に来たことがあるのか。

「きょう、おかあさんのおたんじょおびだから、さくらあげるの」
勝手な決定事項を告げると、彼女はジッと僕の顔を見上げた。

「おにいちゃん、ないてるの?」
言われてハッとして目元を拭う。

「泣いてない」

子どもを相手に、大人げのない意地を張ったような受け答えをしてしまう。
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