花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
第拾捌話 桜
***
彼が教えてくれた十六年前の話に、驚きを通り越して呆然としてしまう。
心臓のリズムもさっきよりずっと速い。
「わ、私、全然覚えてないです」
「無理もない。君があの地区から去ったのはちょうどあの直後くらいだろ? それからずっと、幼い君には抱えきれないような大変なことが続いたはずだ」
彼が両手で私の両手を握って、その手を見つめる。
「私はね、あの頃は本当に生きているのが嫌になってしまっていたんだ。あのまま、消えていくように死んでしまえたらどんなにラクかとずっと考えていた」
〝死〟という言葉に不安になって彼の目を見る。
「だけどあの日、君がこの家に飛び込んできて、私の世界を変えたんだ」
「世界?」
「私のモノクロームみたいな世界に色をくれた」
「私が?」
「木花以外にいないよ」
櫂李さんが眉を下げて笑う。
「コノハナノサクヤビメ」
「え?」
「前に木花という名前が、君にぴったりだと言ったことがあっただろ?」
あのパーティーの日、如月さんと話した時。
彼が教えてくれた十六年前の話に、驚きを通り越して呆然としてしまう。
心臓のリズムもさっきよりずっと速い。
「わ、私、全然覚えてないです」
「無理もない。君があの地区から去ったのはちょうどあの直後くらいだろ? それからずっと、幼い君には抱えきれないような大変なことが続いたはずだ」
彼が両手で私の両手を握って、その手を見つめる。
「私はね、あの頃は本当に生きているのが嫌になってしまっていたんだ。あのまま、消えていくように死んでしまえたらどんなにラクかとずっと考えていた」
〝死〟という言葉に不安になって彼の目を見る。
「だけどあの日、君がこの家に飛び込んできて、私の世界を変えたんだ」
「世界?」
「私のモノクロームみたいな世界に色をくれた」
「私が?」
「木花以外にいないよ」
櫂李さんが眉を下げて笑う。
「コノハナノサクヤビメ」
「え?」
「前に木花という名前が、君にぴったりだと言ったことがあっただろ?」
あのパーティーの日、如月さんと話した時。