花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「サクヤビメはね、子どもができたときに夫である神様に不貞を疑われて」
「え……」
私が浮気しそうって意味ではないよね? と不安になる。

「そこは重要じゃないよ」
櫂李さんが「はは」と笑う。

「彼女は、〝あなたの子なら無事に生まれてくるはずだ〟って、燃えさかる炎の中で子どもを産んだという伝説があるんだ。他にも、火山の火口に飛び込んで命をかけて鎮火させたとかもあったかな」
彼が続ける。

「木花はいつも、行動が大胆なんだ。突然私の家の庭に現れたり、おばあさんのために桜泥棒をしようとしたり、私が欲しいと言ってみたり」

一つ一つを思い出して、少し恥ずかしくなる。

「そういう大胆さが、私にはサクヤビメの強さに結びついて、とても色鮮やかに美しく見える」

「あらためて思い出すと、ちょっと恥ずかしい、です」
櫂李さんが首を横に振る。

「君のその大胆なところが、私の世界を変えてくれるんだ」

そう言って微笑んで、彼はまた私をギュッと抱きしめてくれる。
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