花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
しばらくすると「ピンポン」とチャイムが鳴る。

「お邪魔しまーす! 新居広いじゃん」
香奈の声が明るく響く。

「あ、お茶! えっと……ごめん、まだ全然食べ物も飲み物も無いんだった」
「そんなこともあろうかと、じゃーん!」

香奈はコンビニの袋を掲げて見せた。
中からはお酒の缶やおつまみ、ウーロン茶が出てきた。

「まだ昼間だよ?」
「いいのいいの! 春休みじゃん! 引っ越し祝い! 蕎麦でも買ってくれば良かったね」
彼女は多分、私が落ち込んでるのがわかっていてわざと明るくしてくれている。

リビングのソファの前のカーペットに直に座って、ガラステーブルにお酒とおつまみを広げた。

「え!? マジで離婚なの!?」
お酒を片手に驚く香奈にコクリと頷く。

「そうかな〜と思わなかったわけじゃないけどさ、春櫂先生の創作活動のための別居とか、そういうことかと思った」
香奈が言う。

「それにしても急だね。この間までは幸せそうにしてたのに」
「うん……」
私もお酒をひと口飲む。

「理由って、聞いてもいいのかな」
「冷めちゃったんだって」
私は苦笑い。
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