花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「今お伝えしたことが全てです。お通しできませんのでお引き取りください」
守衛さんは無表情に告げた。

「そんな! 春海さんに話があるんです!」
「そう言われましても……」

「せめて春海さんに電話をつないでいただけませんか?」
私がそう言うと、守衛さんは面倒そうなため息をついて受話器を取った。
この守衛室には門の中の各屋敷に繋がる電話があり、住人以外の来客があれば住人に確認することになっている。

「あ、春海さん、守衛室です。あの、元奥様がいらっしゃっていますが……」
〝元奥様〟……立場を突きつけられるような言葉と、出入り禁止にされているという事実にさすがに悲しい気持ちになる。

「はい、わかりました」
そう言って、守衛さんは受話器を置いた。

「やはりあなたは通すな、ということです」
「そんな……」
「申し訳ないですが、お引き取りください」
私は彼に会釈をして、仕方なく守衛室を後にした。

失敗した。
カードキーを持っている颯くんに付き添ってもらうべきだったのかもしれない。
そんなことを考えてしまい、また颯くんを利用しようとしている自分に呆れる。

自分の力でどうにかしなくちゃいけない。

スマホを出して、櫂李さんに電話をかける。
呼び出し音は鳴るけど、何度かけても出てはくれない。

私は気持ちを整えようと「すうっ」と息を吸って「ふぅ」と吐いた。

「よし」

そして、もう一度門の方に向かう。

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