花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
第弐拾漆話 門
***
春海家から出たあの日振りに、櫻坂を訪れている。
晴れた昼下がりは、日毎に春らしくなっていく。
昨年と違って今年の桜はまだ少しも咲いていない。
それでも、膨らんだ花芽は今か今かと開花を待っているように見える。
櫻坂を抜けて、門を前に立ち止まる。
昨日颯くんと話した後、私は荷物を纏めて春海家のマンションに戻った。
夜は今までのいろいろなことを考えてしまい、それに今日ここへ来ることに緊張して、よく眠れなかった。
櫂李さんは電話をかけても出てくれないから、門の中に入るためには守衛さんに仲介してもらうしかない。
「すみません、春海さんのお宅に用があるのですが」
守衛さんの事務所に顔を出す。
今日の守衛さんは、あの日と同じ白髪交じりの男性だ。
「ではお繋ぎしますので、こちらに住所、氏名、電話番号を……あれ?」
彼が私の顔に反応する。
「あなたは春海さんの」
今の私は春海さんの〝何〟なんだろう。
「これに記入すればいいんですよね」
ボールペンを手に取って、【通行申請書】と書かれた紙に記入しようとする。
「いえ、ご記入いただかなくて結構です」
「え?」
書かなくても入れるということだろうか。
「あなたのことは通さないよう、春海さんに言われています」
「え……? どういうことですか?」
春海家から出たあの日振りに、櫻坂を訪れている。
晴れた昼下がりは、日毎に春らしくなっていく。
昨年と違って今年の桜はまだ少しも咲いていない。
それでも、膨らんだ花芽は今か今かと開花を待っているように見える。
櫻坂を抜けて、門を前に立ち止まる。
昨日颯くんと話した後、私は荷物を纏めて春海家のマンションに戻った。
夜は今までのいろいろなことを考えてしまい、それに今日ここへ来ることに緊張して、よく眠れなかった。
櫂李さんは電話をかけても出てくれないから、門の中に入るためには守衛さんに仲介してもらうしかない。
「すみません、春海さんのお宅に用があるのですが」
守衛さんの事務所に顔を出す。
今日の守衛さんは、あの日と同じ白髪交じりの男性だ。
「ではお繋ぎしますので、こちらに住所、氏名、電話番号を……あれ?」
彼が私の顔に反応する。
「あなたは春海さんの」
今の私は春海さんの〝何〟なんだろう。
「これに記入すればいいんですよね」
ボールペンを手に取って、【通行申請書】と書かれた紙に記入しようとする。
「いえ、ご記入いただかなくて結構です」
「え?」
書かなくても入れるということだろうか。
「あなたのことは通さないよう、春海さんに言われています」
「え……? どういうことですか?」