花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
一つ、前から決めていたことがある。

私は香奈と別れて教務課に向かった。

「こちらが退学の手続きについての説明で、奨学金の停止についてはこちら。ホームページからも手続きができます。不明点があれば聞きに来てください」
事務の職員さんが淡々と教えてくれる。退学なんて、珍しいことでもないんだろう。
「はい、ありがとうございます」

ため息をつきながら、もらった書類を胸に抱いて教務課の無機質な引き戸を閉める。


次に向かうのは、芸術学部棟の絵画科。
正直、広い構内で目当ての人物に会えるかどうかはわからないけど行ってみることにした。

私の所属している文学部棟から芸術学部棟へ向かう途中の、ほとんど人通りのない中庭に探していた人物をすぐに見つける。
あまり他学部との絡みのない学校だから、この場所を通る人は少ない。

一つに結んだ長い髪に和装なのはこの前と同じで、後ろ姿でもすぐにわかった。

「櫂李さん」

ベンチに座っていた彼が驚きながらこちらを振り向く。
講師の間は下の名前を呼ばれることなんて、きっとない。

「木花?」
「やっぱり、この学校にいたんですね」

「そうだけど……」
「この春から有名な若い日本画家が講師に来るって友だちが言ってたの、思い出しました」
「木花もこの学校だったのか。探せばよかった」
会いたいと思ってくれていたことをうかがわせる発言に驚きつつ、私は首を振った。

「多分、見つからなかったですよ。四月はほとんど来てなかったから」
「おばあさんの看病? 芳しくないのか?」

何も知らない彼の質問に一瞬言葉を詰まらせる。
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