花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「やはり君はとても大胆だな」
櫂李さんは眉を下げて困ったように笑った。

そして、私に優しく口づける。


こうして桜並木がすっかり緑に覆われた頃、春で二十一歳になっていた私は春海木花になり、独りではなくなった。
祖母の四十九日も終わらないうちに結婚だなんて非常識なのかもしれない。
だけど、私にはもうそれを咎めてくれる人がいない。

櫂李さんは言っていた通り私の奨学金を一括で返済してくれて、私は何事もなかったかのように大学へ通い続けられている。

アパートも早々に引き払い、櫂李さんの家に住み始めた。家電も全て処分してしまうと引っ越しの荷物がとても少なくて驚かれた。

家事は得意だけど、春海家には週に何度かお手伝いさんが来てくれるからあまり出番がない。

朝も夜も一人で食事をとることがほとんどない。

欲しいものは―欲しいと言わないものまで―彼がなんでも与えてくれる。

あの守衛さんも私が彼の妻だと知ると丁寧に接してくれるようになった。

世界が一変したって、今この瞬間に使う言葉なのかもしれない。

櫂李さんは毎晩、宝物を抱くように私を抱きしめて眠ってくれる。
おかげで肉親を失ってしまったことの寂しさに押しつぶされずに済んでいる。
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