花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
第伍話 花弁
***
櫂李さんと結婚して、ひと月ほどが経った六月の日曜日。
「木花?」
アスファルトから湿った匂いが漂う雨上がりの夕方、門の中を歩いていると知っている声に呼び止められる。
振り返った先にいたのは青い車の窓から顔を出した颯くんだった。
よく知らないけど、外国のメーカーのスポーツカーってやつだって前に教えてくれた。
今は颯くん自身は門の外のタワーマンションで一人暮らしをしているけど、ご両親がここの住人なんだから彼がここにいるのはごく普通のことだ。
颯くんが車を下りて近づいてくる。
「久しぶり。吉乃さんのことは……なんて言ったらいいのか」
颯くんとは、前のアパートに祖母の焼香に来てもらって以来会っていなかった。
彼が申し訳なさそうにしているので、私は首を横に振る。
「遅かれ早かれってやつだから。幸せそうな最期になって良かったって安心したくらいだよ」
それは、櫂李さんのおかげだと思う。
「そっか、木花は一人でちゃんとやってえらいな。元気そうで安心した」
そう言って颯くんは私の頭にポンと触れた。
「ところでお前、ここで何してんの? うちの親に用事?」
「あー……えっと」
会っていなかったという理由もあるけど、なんとなく言いづらくて颯くんには櫂李さんとのことをまだ言っていない。
この地区の住人は徒歩で出歩いたりしない人が多いから、彼のご両親にもまだ遭遇したことがない。
「私今ここに住んでるの」
「え? どういうこと?」
彼にわからないくらい小さく息を吸って吐いてから口を開く。
「私、結婚したの」
櫂李さんと結婚して、ひと月ほどが経った六月の日曜日。
「木花?」
アスファルトから湿った匂いが漂う雨上がりの夕方、門の中を歩いていると知っている声に呼び止められる。
振り返った先にいたのは青い車の窓から顔を出した颯くんだった。
よく知らないけど、外国のメーカーのスポーツカーってやつだって前に教えてくれた。
今は颯くん自身は門の外のタワーマンションで一人暮らしをしているけど、ご両親がここの住人なんだから彼がここにいるのはごく普通のことだ。
颯くんが車を下りて近づいてくる。
「久しぶり。吉乃さんのことは……なんて言ったらいいのか」
颯くんとは、前のアパートに祖母の焼香に来てもらって以来会っていなかった。
彼が申し訳なさそうにしているので、私は首を横に振る。
「遅かれ早かれってやつだから。幸せそうな最期になって良かったって安心したくらいだよ」
それは、櫂李さんのおかげだと思う。
「そっか、木花は一人でちゃんとやってえらいな。元気そうで安心した」
そう言って颯くんは私の頭にポンと触れた。
「ところでお前、ここで何してんの? うちの親に用事?」
「あー……えっと」
会っていなかったという理由もあるけど、なんとなく言いづらくて颯くんには櫂李さんとのことをまだ言っていない。
この地区の住人は徒歩で出歩いたりしない人が多いから、彼のご両親にもまだ遭遇したことがない。
「私今ここに住んでるの」
「え? どういうこと?」
彼にわからないくらい小さく息を吸って吐いてから口を開く。
「私、結婚したの」