花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「ん……っ」

その日は家に帰るなり玄関で呼吸ごと唇を奪われた。
口内を侵されるみたいな乱暴なキス。

玄関のガラス戸は、夕陽の色に染まっている。

「どうしたの? いつもと、ちがう……」
そう言って見つめた彼の夕焼け色を映した瞳も、いつもより険しい。
さっきまであんなに優しく笑ってくれていたのに。

「あの幼なじみの彼は、木花のことが好きなんだね」

私は首を横に振る。

「そんなんじゃ……颯くんは、お兄ちゃんみたいなも……んんっ」
「彼は、そんな風に思っていないよ」
壁際に追いやられて、手首を押さえつけられて、必死で首を振る。

櫂李さんが私の首筋に口づける。
「木花は私に抱かれるたびにきれいになっているけど、他の男を寄せつけてはいけないよ」
「そんなこと、してない……」
涙が滲んでくる。

「私はあなたしかいらない。櫂李さんしか欲しくない」

「いい子だ」

「……んん……あっ」
私のブラウスのボタンを外して、マーキングするみたいに胸元に赤い花弁(はなびら)を散らす。

それから、胸のふくらみの先端に唇を落とす。

「んっ、ここじゃ、嫌……」
涙目で懇願しても、彼は聞き入れてくれない。

「だめだよ」
スカートの裾から差し入れられた彼の手が、私の太腿をわざとゆっくりと撫でる。
身体がビクンと跳ねる。
その反応に、彼が満足そうな笑みを浮かべる。

「きれいだ、木花」
ただの大学生の私がそう言われるたびにいつも思う。

「あなたの方が、きれい」

櫂李さんがクスッと笑う。

私は、あなたの熱しか欲しくない。
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