花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「悲しい話として聞いてほしいわけじゃない。海は好きだと言っただろ? 海を見ると両親を思い出すという話だ。二人一緒だったのがせめてもの救いだし、私の思い出の中では二人とも笑顔だよ」

もう十五年以上も前の話だと言って彼は笑ってくれたけど、本当に傷が癒えているのかはわからない。

「話してくれてありがとう」
声は掠れてしまったけど、泣きそうになるのはぐっと堪えた。

「私も会ってみたかったです。櫂李さんのご両親」
「きっと木花のことを好きになったはずだ」
「桜泥棒でも?」
私の発言に櫂李さんは珍しく「ははっ」と笑った。

「きっと私と同じように庭の桜を君にあげたと思うよ」

そのひと言で、どんな人たちなのかなんとなく想像できる気がした。

「昼を食べて帰ろう。『Cerisier(スリジエ)』を予約してある」
「はい」
スリジエはベリが丘のオーベルジュ。
ランチもとても美味しくて人気がある。

それから私たちは車の中でもスリジエでも、記憶の中の家族のことをたくさん話した。
< 50 / 173 >

この作品をシェア

pagetop