花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—

第玖話 花火

***

「変なところないですか?」

八月後半のある夕方、私が櫂李さんに尋ねる。

「木花はいつでも可愛いから大丈夫だよ」
「もう、櫂李さんはそれしか言わない。真剣に聞いてるのに」
笑顔の彼に、私は照れくささをごまかすように頬をふくらめる。

「浴衣なんて久しぶりに着るから」

今夜はベリが丘の港で花火大会があるから、櫂李さんと夜のデートをすることにした。
夏の初め、浴衣を持っていないと言ったら彼が家に呉服屋さんを呼んでくれた。
たくさんある中から好きな生地を選んで、一着仕立ててもらったものを今夜初めて着る。

「浴衣の柄にも桜があるんですね。春のお花なのに」
「古くからの日本人の心のような花だからね」

色々な柄の反物を見せてもらったけど、私と彼が良いと思ったのは同じ柄だった。
落ち着いた渋みのある燕脂(えんじ)色に白い桜の花が大胆に、だけど上品にあしらわれているもの。
それに紺色の帯を合わせている。

「それで、変なところは?」
「私が着せたのに、おかしいはずがないだろ?」
着付けなんてできるはずもない私に浴衣を着せてくれたのは彼だ。

「それはそうだけど、髪とかメイクとか……」
髪は少しでも大人っぽく見えるようにアップにまとめてかんざしを挿した。

「きれいだよ。きっと今日浴衣を着ている誰よりもね」
櫂李さんはこういうことをサラッと言えてしまう。

今日の彼はグレーに紺色の縦縞の浴衣を着ていて、無地の着物を着ているいつもとは少し雰囲気が違う。

「浴衣、かっこいいです」
「君もそれしか言わないな」
櫂李さんが苦笑いをする。
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