花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—

第拾話 木花

***

春海家には……正確には〝春櫂先生のアトリエ〟には、なのかもしれないけれど、いろいろな来客がある。
中でも定期的に来ているらしいのは画商の人たち。
だいたい私が学校に行っている間や出かけている間に来ていたからまだちゃんとご挨拶をしたことは無いけど、家から出ていく後ろ姿を遠くから見たことがある。
櫂李さんと同じくらいか、少し年上の男女二人。
そのうち「春海の妻です」なんてご挨拶する日が来るのかな。

なんて思っていたら、その日は案外すぐにやってきた。

***

九月、とある土曜の夕暮れ時。

「変なところないですか?」
「木花はいつでも可愛いから大丈夫だよ」

私の私室の姿見の前で、どこかで聞いたようなやり取り。

「櫂李さん、テキトーに言ってません?」
私は不満を顔に出す。

「そんなことないよ。私が着せたのに——」

「「おかしいはずがないだろ?」」

声をシンクロさせて、櫂李さんの言葉をピタリと当てる。
頬をふくらめる私を、彼は眉を下げて笑う。
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