花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
第拾壱話 軋ム
パウダールームを出て会場に戻ろうとしたところで、意外な人物に遭遇した。
「颯くん」
スーツ姿の颯くんだった。
「木花。久しぶり」
颯くんに会うのは六月のあの日以来。
「広間でやってるパーティー? 絵画賞がどうのって書いてあった」
「う、うん。颯くんは?」
「俺はこのホテルで学会があって、今は懇親会」
「そうなんだ……お医者さんて大変だね」
あの日の怒ったような颯くんと『放っておいて』と言ってしまった自分を思い出すと、なんとなく気まずくて話が続かない。
つい俯いて目を逸らしてしまう。
「その着物、似合ってるな」
「え? あ、ありがとう」
颯くんが私の服装を褒めるなんて珍しくて、私は思わず顔を上げる。
きっと彼も気まずくて気を遣っているんだと思う。
「彼が選んでくれたの」
季節にも私にも似合うと言ってくれた、撫子の花の柄。
「そっか、うまくいってるんだな。結婚生活」
その言葉に無言で頷く。
「木花、あの日のことは悪かったと思ってる。急な話で……俺とお前の仲なのに相談してくれなかったのがショックだったんだ」
颯くんが申し訳なさそうな表情で謝罪する。
「だからさ、前みたいに普通にしてくれないか?」
「う、うん」
「今度結婚祝いもさせてくれよ」
「ありがとう」
颯くんのほうからこんな風に言ってくれて正直ホッとした。
あの日掴まれた手首の痛みが、今日までずっとモヤモヤと記憶に残っていたから。
「良かったら……おばあちゃんにお線香あげに来て」
「ああ。じゃあ、また連絡する」
そう言って、彼は私とは別の会場に向かっていった。
「颯くん」
スーツ姿の颯くんだった。
「木花。久しぶり」
颯くんに会うのは六月のあの日以来。
「広間でやってるパーティー? 絵画賞がどうのって書いてあった」
「う、うん。颯くんは?」
「俺はこのホテルで学会があって、今は懇親会」
「そうなんだ……お医者さんて大変だね」
あの日の怒ったような颯くんと『放っておいて』と言ってしまった自分を思い出すと、なんとなく気まずくて話が続かない。
つい俯いて目を逸らしてしまう。
「その着物、似合ってるな」
「え? あ、ありがとう」
颯くんが私の服装を褒めるなんて珍しくて、私は思わず顔を上げる。
きっと彼も気まずくて気を遣っているんだと思う。
「彼が選んでくれたの」
季節にも私にも似合うと言ってくれた、撫子の花の柄。
「そっか、うまくいってるんだな。結婚生活」
その言葉に無言で頷く。
「木花、あの日のことは悪かったと思ってる。急な話で……俺とお前の仲なのに相談してくれなかったのがショックだったんだ」
颯くんが申し訳なさそうな表情で謝罪する。
「だからさ、前みたいに普通にしてくれないか?」
「う、うん」
「今度結婚祝いもさせてくれよ」
「ありがとう」
颯くんのほうからこんな風に言ってくれて正直ホッとした。
あの日掴まれた手首の痛みが、今日までずっとモヤモヤと記憶に残っていたから。
「良かったら……おばあちゃんにお線香あげに来て」
「ああ。じゃあ、また連絡する」
そう言って、彼は私とは別の会場に向かっていった。