花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「そもそも私が作品を量産するタイプの画家ではないのは、君たちが一番よく知っているだろ? 何か月も描かないことだって今までにもあったはずだ」

櫂李さんがため息交じりに言う。
声は普段の穏やかな色に戻っている。

「それが今は桜を〝描きすぎている〟というだけの話だ。そのうち描きたくなれば別のものも描くさ」
「そうだよ透子。櫂李はひきこもりも卒業して大学の講師なんかもやってるんだから、そのうち春櫂大先生が今までにない新しい作品を描いてくれるよ」

如月さんはおしゃべりな人ってだけじゃなくて、空気を読んでまとめてくれる役なんだ。
いてくれて良かった。

今度は透子さんが「はあ」とため息をつく。

「売れるものを描いてくれさえすれば文句ないわよ」

その場はそれで丸く収まったけど、私はいろいろなことが気になってしまった。


櫂李さんは家では相変わらず桜ばかりを描いているけど、本当に大丈夫なのかということ。


私は櫂李さんに相応しくなれるのか、ということ。


それから、櫂李さんと透子さんは……男女の関係なのか、ということ。
少なくとも透子さんの方は櫂李さんに恋愛感情を持っているように見えた。
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