花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「でもどうして? この絵」
「あの桜は散ってしまっただろ? 絵なら散らない」

花瓶にさして延命剤を使ってみたりもしたけど、花にとって環境が良いとはいえない病室ではあの桜の枝は二週間ほどで散ったり枯れたりしてしまった。

「花盗人は罪にならないって言ってくれたけど、結局枯らしてしまったから……花にとっては罪ですね」
「あの言葉は心の有り様のことだからね。どちらにしろ生花はいつか散ってしまうものだ。それまでの時間、できるだけ永く咲き続けられるように大切に愛でてやればいい」

そう言った彼は、なぜか私を抱きしめた。

「櫂李さん?」

彼は黙っている。
もうすっかり慣れたはずの櫂李さんの匂いがして、それでもやっぱりドキドキしてしまう。

「あ、これが最近描いてた桜、ですか?」
彼の胸の中で聞く。

「うーん、まあ、最近描いた桜ではあるね」

なんだかはっきりしない。
だけど聞いてはみたものの、ずっと描いていた絵にしてはサイズが小さくてこれじゃない感じがする。
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