花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「今日はもうクローズしているから、そこに座って待っていてくださる?」
ギャラリーの真ん中の商談用らしきテーブルに案内される。

中学や高校の教室くらいの広さのギャラリーは部屋全体が壁も床も、私が座っているテーブルセットも真っ白。
ギャラリーというだけあって壁には絵がたくさん飾られている。

「コーヒーでよかったかしら」
透子さんがカップに淹れたコーヒーを持って来る。
「あの、すぐに失礼するので」
「本を貸す代わりに、少しお話しさせてくれないかしら。あなたとゆっくりお話ししたいって思っていたの」
彼女の妖艶な笑顔に、〝来なければ良かった〟心底そう思った。

「木花さんは、絵がお好きなの?」
コクリと頷く。

「うちのギャラリーでも作家さんの個展なんか開くのよ。無料だからよかったらたまにはいらしてね」
「はい……」

「木花さん、櫂李とはどこで知り合ったの? もしかして大学?」
やっぱり櫂李さんの話。私は首を横に振る。
「たまたま知り合っただけです」
あの出会いは誰にも言えないし言いたくない。
とくにこの人には。

「たまたま? それで春櫂先生と知り合えたわけ? ふーん、運が良いわね」
「そうですね」
適当に相槌を打って早く終わらせたい。

「どうして櫂李が急に結婚したのかわからないけれど、本当に可愛らしいわよね、あなた」
「はあ……」

「今ここにいたくないって感情を隠さない素直なところが」

私は思わず透子さんの方を見る。
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