花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
一人になって、お茶の葉を急須に入れてため息をつく。

「お手伝いするわ」

急に後ろから声をかけられてビクッと肩が跳ねてしまった。

「あの、さすがに台所に他人に入られるのは……」
「あら、初めてじゃないわよ。家政婦さんのお手伝いもしたことがあるわ」
私よりもずっと前からこの家に出入りしているって言いたいんだ。

「でも今は私の家ですから」
私は芹沢さんがポットに入れてくれていたお湯を急須に注いだ。

「家政婦さんが家事をしているんじゃなくて?」
「それは……櫂李さんが無理しなくていいって言ってくれるから。私だって家事は得意だし、できることはしてます」
また子どもっぽい対抗心を見せてしまう自分が本当に嫌になる。

「家事は得意、そうよね。あなた、櫂李と結婚するまでは大変だったみたいね」
透子さんが言う。

「おばあさまの看病をしながらアルバイトもして、奨学金で大学に通って」

そんなことをどうしてこの人が知ってるの?

「櫂李が奨学金を肩代わりしてあげたのかしら?」
「あなたには関係ないです」

「どうして櫂李が急に結婚したのか不思議だったけど、なんとなくわかった気がするわ」
「え……?」

「たまたま出会った可愛らしい女の子の境遇があまりにも不憫で同情しちゃったのね。男性の庇護欲が刺激されちゃったんじゃないかしら」

〝同情〟と聞いて、櫂李さんが如月さんに言っていた言葉がよぎる。

『しなくていい苦労をしてきているからね』

気にしないようにしてたけど、あれはどういう意味だろう。本当にこの人が言うみたいに同情なのかな。
< 87 / 173 >

この作品をシェア

pagetop