カラダもココロも甘く激しく溺愛してくる絶対的支配者様〜正しい恋の忘れ方〜
先輩が私のブレザーの襟を掴んで、そのまま引き倒した。

悔しくて涙がこぼれる。
どうにか止めようと歯を食いしばっても、一度決壊した涙腺は崩壊したまま涙を止めてはくれない。

悔しい。
どうしたって先輩の力には敵わない。
いつもこうやって先輩のなすがままだ。

バランスを崩して床に転んだ私を本郷先輩が見下ろしている。

中腰になって私を見つめる先輩の瞳は、何故かいつもみたいに自信に満ち溢れてはいない。

「何回言ったら分かるんだよ。お前を恨んでなんかない」

「悠太に何を言ったんですか。私の何を言ったんですか!なんでこんなことするんですか!」

「殺すって言ったんだよ」

低く、静かに囁くように言った先輩を、私の好きにしていいのなら、私のほうこそ本郷 カナデを殺してしまいたかった。

「砂雪に今後一度でも関わったら殺すって言った」

「なんでそんなこと…」

「あいつはお前になんて言った?」

先輩は私の質問には答えなかった。
そんなこと、納得できるはずない。

「なんで悠太にそんなこと言ったんですか。悠太があなたに何をしたっていうの?」

「砂雪!あいつはお前になんて言った!?」

大声を出した先輩に、ビクッと肩が跳ねる。
なんで先輩が怒ってるの?
そんな筋合い無いから!

「あいつは砂雪をちゃんと拒絶したか?」

拒絶…。悠太が私を拒絶するように仕向けたんだ。
私の恋を、大切な人を奪ったんだ。

「二度と俺に関わるなって」

「あいつがそう言ったのか?」

「そうですよ。二度と…もう二度と俺に話しかけるなって。お前なんて大嫌いだって………私の好きな人は…私なんて大嫌いだって…!!!」

「あいつ、ちゃんと約束は守る男なんだなぁ。えらいじゃん」

酷い。
こんな奴、人間なんかじゃない。

悪魔だ。
あなたになんの権利があるの?
そこまでされる筋合いなんか無い。

なのに私の恋は壊れた。
他人の手によって、私の恋は終わった。

大切だったのに。
大好きだったのに。

私の涙を手の平で乱暴に拭って、先輩は一瞬だけ私をギュッとした。

「ごめんな」

そう呟いて、空き教室を出ていった。
ドアを開けた時、教室の前には誰も居なかった。

騒動を聞きつけて、先生達が散らせてくれたのかもしれない。

いっそ殺してくれてもよかった。

本郷先輩に危害を加えた害悪として、殺してくれればよかったのに。

悠太とはもう、元には戻れない。
なんでそこまでされなきゃいけないのか分からない。

こんな学園にさえ来なければ、たとえ高校が離ればなれになったとしても、悠太を失くすことはなかったのに。
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