カラダもココロも甘く激しく溺愛してくる絶対的支配者様〜正しい恋の忘れ方〜
「あの日のことはよく覚えてる。思い出せないのは描こうとしてた絵のことだけだ。何も描きたいものなんて無かった。全部が白黒に見えて、質量なんか無い、ペラペラの世界に見えた。どっからか走ってきて、男子の腕を掴んでさ、何やってんの!って叫んだ女の子だけが急に鮮明に、色を持って俺の目に映った」

「いじめ…られてたんですね…」

「あぁ」

「原因は?」

私に触れていた指先で先輩は自分の顔に触れて、諦めたように小さく笑った。

「容姿の違いだ」

「容姿?」

「小六の時からだった。最初は、女子にチヤホヤされて調子に乗ってるとか、整形なんじゃねぇのとか嫌味から始まって。だんだん言葉に悪意が含まれるようになった。気持ち悪いとか、人間じゃないとか。お前は違う生き物だから仲間に入れないとか。毎日毎日言葉でなじられて、体育倉庫に閉じ込められたり持ち物を捨てられたり。中学生になったら終わるって思ってた。でも私立だったからさ。しかも変な巡り合わせでさ、みんな同じクラスになって、中学になっても何も変わらなかった」

「なんでずっと黙ってたんですか?やり返そうと思えばいくらでも…」

「やり返したって俺はこのまま、俺のまま生きていくしかないだろ?ずっと自分に付きまとってるんだ。ここでやり返しても何も変わらないって諦めてた。でも、お前が現れた」

「はい…」

「砂雪があいつらに言ったんだよ。ちゃんと片付けなさいよって。こんなに綺麗な公園を、こんなに綺麗な子を汚すなんてあなた達は本当に心が汚いのねって。俺さぁ、笑っちゃったんだよ。どれくらいぶりか分かんないくらい、おかしくてたまらなかった」

「私、そんなこと言ったんですね。恥ずかしいな」

先輩は首を横に振った。
優しい目で笑っている。

「俺は救われた。神様かと思ったくらい」

「大袈裟です」

「お前のことは慌てて友達が連れ戻しにきてさ。名前も聞けないままだった。それからすぐにいじめがやんだわけじゃないけど、そんなことはもうどうでも良かった。お前に会いたかった。どうしても。俺の世界に色をつけてくれたあの子に会いたいってずっと思ってた。自分で変わらなきゃいけないって思った。じゃなきゃ再会した時になんにも変わってないねって軽蔑されるのが怖かった。だから中二になって転校した。過去なんか捨てて人との関わり方も生活態度も全部変えてさ、生まれ変わった気持ちでとにかく生きてきた。砂雪にまた会えることだけを信じて」

「それで、今の本郷 カナデが誕生したんですね」

「人に求められることは変な気分だった。あの頃は全員が俺に消えて欲しがってたのにって。俺が欲しいのは砂雪だけだったのに」
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